経済を見る眼 政府の財政試算には客観性を

佐藤 主光 ファカルティフェロー

内閣府が新しい中長期の経済財政に関する試算を1月に公表した。向こう10年の日本経済と財政の動向に関する試算であり、アベノミクスの成功(脱デフレと経済再生)を想定した「成長実現ケース」と、足元の経済状況(潜在的経済成長率)を踏まえた「ベースラインケース」から成る。成長実現ケースでは2020年度以降、実質2%、名目3%以上の経済成長が達成できると想定している。

財政については、19年10月に消費税率を10%に引き上げるものの、幼児教育の無償化などが影響して20年度の基礎的財政収支(PB)は対GDP比で1.8%(10.8兆円)の赤字が残る。しかし、堅調な経済成長に支えられて27年度にはPBが黒字化する見込みだ。また、金利が当面、成長率を下回る水準で推移する結果、国・地方の債務残高の対GDP比は、17年度の190%から27年度に約160%まで低下する。

ただし、今回の試算は27年度までにとどまる。経済の回復に伴い、20年代後半には金利が成長率を上回り、その後上昇に転じることだろう。

こうした見通しにはいくつかの条件があることに注意しておきたい。たとえば、経済の生産性の上昇率は現行の0.7%程度から1.5%程度まで上昇する。これはデフレや高齢化が深刻化する以前の1980年代の上昇ペースに相当する。女性の労働参加率については22年度にM字カーブが解消し、高齢者の労働参加も足元の上昇傾向が今後も続くとしている。

いずれも、高い生産性と労働参加率の下で高い成長率が試算されている。言い換えれば、政府が現在取り組んでいる働き方改革を含めた政策の成功が条件になっている。他方、ベースラインケースの場合、20年代の成長率は実質で1.2%程度であり、PB赤字は10年経っても解消されず(27年度でも8.5兆円の赤字が残る)、公的債務対GDP比も高水準なままだ。

成長実現ケースにあるような楽観的な見通しは、財政や社会保障に対する国民の不安を解消するのだろうか。あるいは、高い成長の実現に向けて、いわゆる岩盤規制の見直しなど、改革への取り組みを促すのだろうか。

多くの国民からすれば役所の「お手盛り感」があり、成長実現ケースは信頼しにくいだろう。アベノミクスが成功しさえすれば、痛みを伴う構造改革はいらないという認識が広がり、かえって高成長に必要な改革が進まず、財政健全化も一層遅れる懸念がある。

政府はPBの黒字化と併せて公的債務の対GDP比の安定的引き下げを目標に掲げてきた。試算では、後者は少なくとも20年代半ばまでは達成できる。あえてPBの黒字化を急ぐことはないという主張も強まりそうだ。

本来、財政・経済の将来見通しには客観性と慎重さが求められる。今後、新たな財政健全化(PB黒字化)目標を作成するにしても、ベースラインケースに拠ることが望ましい。成長実現は政府の「目標」であり、あたかも達成されたかのように、それが議論の「前提」になるならば本末転倒であろう。

『週刊東洋経済』2018年2月10日号に掲載

2018年2月27日掲載

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