温暖化対策の難路 再エネ費用度外視避けよ

大橋 弘
プログラムディレクター・ファカルティフェロー

地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」において、日本は2020年までに長期戦略を提出することとしている。この戦略では、50年の二酸化酸素(CO2)排出量の削減目標が提示される予定だ。来年6月に日本がG20議長国となることから、16年の地球温暖化対策計画で示した「50年までに80%の温暖化ガスの排出削減」へ向けて、大胆な方向性を示すべきだとの意見も多い。

CO2排出量を80%減らした「脱炭素社会」とはどのような姿なのか。様々な研究機関が行っている試算に共通する前提は、①電化②電力の脱炭素化③省エネの3つを革新的に推し進めないと、この削減目標を容易に達成できないという点である。

なかでも排出量の4割以上を占める電力の動向がカギを握る。科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターの試算では、削減率80%を達成するには、総発電量に占める再生可能エネルギー比率を60%以上にすべきだとする。様々な施策を行った末の再エネ比率が現在15%程度であることを鑑みると、途方もない数字であることが分かる。

脱炭素社会の達成には、日本で再エネ普及の多くを占める太陽光発電への期待が大きい。本稿では、日本が脱炭素社会に向けて温暖化対策を進める上で、解決すべき課題を太陽光発電に注目して論じてみたい。

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太陽光発電を考える上で、念頭に置くべき点が2つある。まず天候に応じて発電量が変動するという特性である。この特性は、真夏など需要が増加する時間帯が晴れであると、需要のピークを抑えるのに貢献する。他方で、発電量と需要量がうまくあわないときは停電が起こるために、発電量と需要量を埋め合わせるための火力や揚水といった調整電源を必要とする。

利用できる蓄電池の容量がいまだ乏しいなか、調整電源の多くは数時間たたないと発電できず、天候の急変や天候予測の誤差に備えて事前に発電機を温めて待機させる必要がある。この待機量は太陽光発電の導入量に応じて増大することから、太陽光発電普及の隠れたコストとなっている。

2つ目の点は、買い取り制度の存在である。12年に開始した固定価格買い取り制度(FIT)の下で、電力会社が電気を一定価格で買い取ることが義務付けられている。そしてこの費用負担は電力需要家である家庭・企業が賦課金として負うこととされる。賦課金総額は制度導入当初の想定を超えて増大し、現在は消費増税1%の期待税収に匹敵する2兆円を上回っている。

さらに19年秋からは買い取り期間終了を迎える太陽光発電が登場し、パネルの放置や不法廃棄が増大するのではないかという懸念も高まっている。その他にもFIT認定を受けながら、何年もパネルを設置せずにオプション権利を保有し続ける未稼働問題など、買い取り価格を巡る不適切事例は数多い。

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こうした太陽光発電の特性を踏まえたとき、温暖化対策における今後の日本に求められる視点を3つ指摘したい。1点目は、費用対効果の視点である。温暖化対策には電化や省エネなど様々な手法があるが、経済学的に国民負担を最小化する効率的な方法は、炭素を限界的に削減する費用が安い手法を優先的に取り組むことである。

他方で炭素を排出しないことに対して補助金を出すFITにおいて太陽光発電のCO2削減量1トンあたりの費用は今年度の調達価格26円を基に計算すると約3万1千円であり、排出量取引の市場価格(同2千円程度)と比べてもかなり高額である。加えて事業用再エネの適地は電力系統の弱い地域であることが多く、そうした地域にパネルや風力が設置されれば、系統増強などのコストも新たにかかる。

こうした諸々の費用負担は国民が負うことになる。温暖化対策として再エネのさらなる導入が望ましいとしても、費用対効果の観点から、どの程度まで国民負担が許容されるのか、議論される必要がある。太陽光発電は20年程度で事業が完了するのに対して、電力系統は50~100年ものあいだ維持可能なので、長期的な視点を欠いた安易なネットワーク増強は将来世代にツケを残しかねない。入札制の導入など価格低減に向けた取り組みも始まったが、IoTなどの技術を用いたネットワーク運用の高度化にも挑戦しつつ、費用対効果を意識した対応が求められる。

2点目は、市場メカニズムとの整合性に対する視点である。東日本大震災以降に進められてきた電力システム改革も16年に小売り全面自由化のステージを迎えた。卸電力取引市場の取扱量も電力需要の20%に迫るなど、市場の流動性も高まりつつある。そうした中で、FITという補助金で支えられた再エネを、市場メカニズムとどのように共存させるかが課題となる。

この論点が明確に現れたのが、10~11月に複数回、九州エリアで発動された再エネ出力抑制である。図には、最大規模の出力抑制がなされた10月21日における市場価格と入札量などを示した。興味深い点は2つある。1つは、供給余剰が生じた再エネ出力抑制時間帯に、エリア価格が3円とプラスの値をつけている点である。余剰を解消するには、発電事業者に余剰を出させないよう、負の価格が望まれるが、日本はそれを許さない市場設計を採用しており、見直しが求められる。

図:九州エリアでの再エネ出力抑制時の電力市場
図:九州エリアでの再エネ出力抑制時の電力市場
(注)九州電力と日本卸電力取引所のHP情報をもとに筆者作成

より深刻なのは、売り入札量が買い入札量を大幅に上回り、エリア内で解消する見込みがない点にある。現在は中国地方以東へ電気を流すことで余剰を解消しているが、脱炭素社会では全国で同時間帯に余剰が発生する可能性が高い。余剰の安価な電気を効果的に利用する需要側のイノベーション(革新)と共に、市場メカニズムと共存できる再エネ普及の方策としてFITを見直し、例えば炭素税の導入と置き換えるような抜本的検討も必要ではないか。

3点目は、主力電源化・自立電源化に向けての視点である。9月6日の北海道地震で浮上した疑問は、太陽光や風力といった再エネの供給力を活用すれば、ブラックアウトの時間を短縮できたのではないかという点であった。

電力の安定供給は旧一般電気事業者(大手電力)が担うという慣習を変え、再エネも主力電源としてその一翼を担う方向で政府でも検討が進められつつある。さらにもう一歩踏み込んで、天候等の予測誤差のパックアップとして、旧一般電気事業者の調整力電源に頼る必要のないように、例えば蓄電池などの調整力とセットになった自立的な再エネを積極的に優遇するような措置を検討してもよいだろう。

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地球温暖化問題において忘れてはならないのは、世界全体のCO2排出量の4%程度しかない日本がどんなに頑張っても、一国では地球温暖化を止めようがないという事実である。温暖化といった外部性を有する問題に対しては、地球規模での協調によって対応するのが適当だろう。

例えば、日本での再エネ技術を海外で生かすことによって減らされたCO2削減量を、日本国内での削減量として評価するような仕組みを国際的なルールにするよう働きかけるのはどうだろうか。国内で進める温暖化対策の取り組み成果が、国際的に生かされて初めて、地球温暖化の解決への道も見えてくるのではないかと思われる。

2018年11月20日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2018年12月27日掲載

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