無形資産の豊かさで日本は米国に後れを取っているとの見方が根強い。内閣府の資料によると、米国の株価(時価総額)における無形資産の割合が90%に達する一方、日本は30%強にとどまる。ここから「日本人は特許に代表される無形資産の創造性が乏しい」との悲観論に傾きがちだが、それは本当だろうか。
注目したいのはイグ・ノーベル賞だ。ノーベル賞のパロディーで創設され、「まず人を笑わせ、そして考えさせる」を理念とする。今年は故・海野徳二旭川医科大学名誉教授らの研究「正しい鼻のかみ方」に医学賞が授与された。
日本勢では20年連続の受賞となる。「ワニがヘリウムを吸うと鳴き声がどう変わるか」(音響学賞)など、一見奇抜ながら深い洞察と応用性を秘めた研究が表彰されてきた。選考委員会も、①周囲があきれるほど特定テーマを追い続けるオタク気質②奇抜な研究をも受け入れる懐の深さ(あるいは認められない環境でも研究を続ける強さ)③最終的に実用に結びつく研究の多さ、のいずれでも日本人は世界屈指だと評価している。
日本人の創造力が乏しいわけではない。その創造力を株価に変え、経済的価値にまで高める「経営の創造力」が欠けているのだ。豊富な無形資産をいかに製品化するか、製品化された事業をいかにスケールさせるか、スケールされた事業をいかに高収益化するか、といった経営の核心で日本企業の改善余地は大きい。
筆者が顧問を務める知財・無形資産ガバナンス表彰審査委員会で選ばれた味の素やアシックス、荏原などのように、無形資産を経営戦略に組み込むことで企業価値の向上に成功した実例は少なくない。
「守る資産」からいかに「稼ぐ資産」へ転換できるか。日本人の創造力ではなく、経営のあり方がいま問われている。
2026年10月13日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載