社外取締役制度のわな

中神 康議
コンサルティングフェロー

2013年、オックスフォード大学のオズボーン准教授(当時)らがある論文を発表した。米国の労働人口の47%が20年後までに機械に代替可能となるというものだ。予測は難しいが、多くの職業が喪失の危機にあるのは間違いない。

一方、わが国では資本主義の核心で新しい職業の従事者が増えた。社外取締役だ。15年のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)策定以降、わずか10年で1万人規模の社外取が生まれたのだ。

しかし課題も浮かび上がっている。会社の執行側からは「役に立たない」、投資家側からは「頼りない」との批判が聞かれる。制度は整っても、現場は機能不全――。それが実態ではないか。

まず、社外取の責務の誤解を解かなければならない。助言や意思決定への貢献は二義的で、一義的な責務はあくまでも「監督」にある。執行陣の評価と、それに基づく最高経営責任者(CEO)の選解任が責務だ。執行陣はあくまで評価される立場なのだ。

質の向上も急務だ。企業統治という重い責務を負託された存在に公的な資格や研修制度がないのは不思議だ。英米や中国には認定制度や試験がある。磨くべきは企業価値とガバナンスへの深い理解だ。その分野の資格認定制度を整備してはどうか。

わが国ではいま、「同意なき買収」やMBO(経営陣が参加する買収)など、「経営支配権」の勃興期にある。関係者の利害が対立する局面では、取締役会の独立した判断が問われる。

価値創造に優れた執行陣は守られ、逆なら取って代わられるべきだ。価値破壊的な買収者は退けねばならない。

見識ある社外取で構成されなければ、稚拙な判断が企業価値を毀損する。次のガバナンス改革の焦点は、制度の精緻化よりも社外取という生身の人間の「質向上」にある。

2026年6月23日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2026年6月30日掲載

この著者の記事