企業統治指針 改訂の核心

中神 康議
コンサルティングフェロー

7月下旬に公表されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)改訂の特徴は、スリム化とプリンシプル化だ。80超まで増えていた補充原則を廃止し、「指針」へと改めた。コンプライ・オア・エクスプレイン(順守か説明か)も、自らの言葉で説明するエクスプレイン重視の方向性を明確にした。

筆者は今回の改訂の有識者会議メンバーとしてこの方向を支持する。細則が増えるほど企業は「対応」に追われ、形式的なコンプライの積み上げが、かえって統治を実質のないものにしてきたからだ。

「スリム化とプリンシプル化は『従うコード』から『自ら考えるコード』への大転換だ。一方、細則がなくなれば企業は何をよりどころにすればよいか。最初のコードから書かれていながら浸透しなかった『受託者責任』を再度掲げてはどうか」。会議で筆者はこんな意見を述べた。

議論の末、改訂後の趣旨文書の冒頭で経営者の存在について「株主から負託された信任に応える受託者」である、との一句が置かれた。

受託者責任とは軽い文言ではない。「自らの利益を犠牲にしてでも」資本を委ねた者の利益を追求すべし、という法的にも最も重い責任だ。

改訂コードには現預金水準の説明や成長投資への資本配分など新たな軸も示されたが、突き詰めれば受託者責任の派生形にすぎない。この責任を自覚すればコンプライもエクスプレインも、自らの頭で考え、自らの言葉で語れるはずである。

受託者責任という言葉の重みを、経営者と取締役会がかみしめる。そのとき「従うコード」から「自ら考えるコード」への転換が現実に動き出す。自問すべきは、チェックリストの充足率ではない。

「我々は誰の負託に応えて、この椅子に座っているのか」――この一問なのである。

2026年8月6日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2026年9月10日掲載

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