日本企業における外国人材の活躍を考える③
日本の雇用慣行と外国人材の活躍

劉 洋
研究員

外国人材の活用による経済効果をより大きくするためには、受入国の就労環境も重要になります。日本の場合、固有の雇用慣行の多くが外国人材の活躍を阻害すると指摘されてきました。例えば、スウェーデン・マルメ大学のトルングレン先生とハーバード大学のホルブラウ先生の2016年の研究では、日本とスウェーデンは共に言語と文化の壁があるものの、日本はスウェーデンのようなワーク・ライフ・バランスに欠けるため、外国人材の獲得に不利だとしています。

これまでの調査で、日本の就労環境上の問題点として主に指摘されたのは、キャリアの発展性、年功序列制度、長時間労働、日本人との区別などです。たとえば、田村・石井・オスティン「外国人の日本での就業に関する意識調査」(2018年、経済産業研究所)は、外国人社員の満足度で最も低いのはキャリアの発展性と労働時間だとしています。また、アデコの2018年の調査の「外国人材が日本の企業で長く働くために、企業に必要だと思うこと」では、「よりよいワーク・ライフ・バランスへのサポート」と「日本人・外国人従業員間の区別の撤廃」が上位に並んでいました。

こうした問題を解決するために、外国人材マネジメントの人事戦略として、外国人に特別なキャリア・パスを用意したり、成果主義の評価システムを導入したりすることがあります。しかし、それらが問題を解決するとは必ずしも限りません。

まず、キャリア・パスについては、ホルブロウ先生と永吉希久子准教授(東北大学)の研究(2016)が、外国人を日本人と異なるキャリア・パスで育成することは、外国人の賃金に負の影響を与えることになるとの結果を示しました。具体的に、企業が外国人にどのような役割を期待するかという質問に対して、海外現地法人の経営幹部と答えた企業群と、海外営業・技術者など専門人材と答えた企業群は、ともに外国人社員の賃金に有意な負の影響を与えました。同研究は、その原因を日本の雇用慣行のひとつである、社員を様々な仕事を経験させ、キャリア・アップにつなげるジョブ・ローテーションにあると解釈しています。外国人材だけを特別なキャリア・パスで育成することは、ジョブ・ローテーションの機会が少なくなり、昇進のチャンスも限られるため、賃金に負の影響を与えることになると考えられます。

また、年功序列制度は、外国でよく見られる能力や成果に基づく評価システムとは異なるため、外国人社員が戸惑うことが多いです。そのため、外国人社員の評価は、年功序列ではなく、能力主義に基づいた方が良いではないかという考え方があります。しかし、前述の研究では、成果主義の評価システムは、勤続年数が短い外国人社員の賃金に正の影響を与える可能性はあるものの、勤続年数が長い外国人社員の賃金に負の影響を与えることが示されました。彼らの解釈によれば、成果主義はマネージャーの主観的な評価に基づくことが多いため、その上昇幅は、長期的にみると年功序列の年数に応じて伸びていく上昇幅より小さくなるからだとのことです。

長時間労働も一見、阻害要因にみえます。しかし、会社の中で、外国人社員のみを長時間労働から離すことは、外国人にとっては必ずしも望ましいことではありません。なぜなら、日本で長時間労働に従事することは、仕事の役割が評価されて、将来のキャリア・アップを期待する効果もあるため、余暇時間の減少による効用減と相殺する可能性もあるからです。筆者の2018年の研究では、残業時間の増加が、外国人の日本を離れる意志に与える有意な影響は見つかりませんでした。さらに、筆者の2019年の研究では、外国人社員の仕事満足度に対して、会社全体のワーク・ライフ・バランスが非常に有意な影響を与えるものの、個人レベルの残業時間は、有意度がそれより低かったことも示されました。

最後に、海外でよく見られる、外国人社員に対する差別は、日本の検証ではまだはっきり分かりませんが、日本の企業では、外国人社員を日本人社員と区別して仕事を与えることもよく見られます。それは、外国人社員の外国語や海外事情の知識などを生かすという面がある一方で、逆に、本来あるべき仕事やキャリア・アップの機会を失うという面もあるため、必ずしも差別とは言えません。しかし、上述のように、アデコの調査では、6割強の外国人社員が「日本人・外国人従業員間の区別の撤廃」を求め、また、約7割の外国人社員は「外国人がゆえに機会を与えられなかったと感じること」があるとしています。筆者の2018年の研究でも、企業が外国人社員を日本人と区別して雇用することは、外国人社員が日本を離れる意志に有意な正の影響を与えることが示されました。

このように、日本の雇用慣行が外国人材の活躍を阻害する要因となることを避けるために、外国人を日本の雇用慣行から外すことは、逆に外国人に不利益を与えて、逆効果になる可能性が高いのです。外国人社員のみの働き方を変えて、企業全体が変わらなければ、外国人社員だけにキャリア・アップの機会の喪失をもたらす可能性があります。したがって、現行の雇用慣行の下で、外国人材に適切な評価とキャリア・アップの期待を与えて、全体的な仕事満足度を高めることが重要であると考えられます。長期的には、「働き方改革」などにより、従来の日本の雇用慣行を見直すことも、日本人労働者のみならず、外国人労働者の経済効果の発現にとっても効果的でしょう。

2019年10月5日 生産性新聞に掲載

2019年11月5日掲載

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