コロナ感染拡大で厳しい入国制限が実施されるなか、訪日する外国人観光客が99%以上減少したにも関わらず、2020年6月末の在留外国人数は、コロナ前の前年末に比べてわずか1.6%減少しただけであり、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人労働者は逆に6.2%(1万6,996人)増となった(注1)。2020年7月の外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議の資料にも、「今後、新型コロナウイルス感染症が収束した後には、経済情勢の好転や来日する外国人が急激に増加することが見込まれることから、必要な外国人材を円滑に受け入れられるよう、引き続き外国人材の受入れ環境整備に全力で取り組んでいく必要がある」とされている。
その背景には、日本として、今後長期にわたり「必要な外国人材」を積極的に受け入れるという姿勢がある。しかし、そうした外国人材が日本で長期的に就労・生活する以上、日本人との間に生じる格差は無視できない。本コラムでは、日本に長期居住する外国人と日本人の格差につき、失業率に着目して考察する(注2)。コロナで失業率が高まるなか、外国人住民の深刻な失業問題も多く報道されたが、それはコロナによる一時的な問題ではなく、すでに長い間存在しており、日本人との間の格差も大きいと考える。
海外における移民と本国民の格差
外国人住民と本国民の格差は多くの国で注目され、学術研究と政策研究が盛んに行われてきた。海外の研究では、移民は本国民と比べて、失業期間が長い、仕事を見つける確率が低い、生涯雇用への期待も低いことが示されている (Mooi-Reci and Muñoz-Comet 2016)。移民と本国民の賃金格差も広く認められており (例えばBarrett et.al. 2016)、OECD International Migration Databaseによると、OECD諸国平均で、移民の失業率は本国民の1.5倍となるとの統計も報告された(注3)。それらの格差の主の原因の1つは、移民の低い教育水準だとされている (Schoeni 1998, Painter et.al. 2001, Ferrer et.al. 2006)。
日本の現状
日本政府は移民を認めないという公式見解を示しており、現在まで厳しい選択的な外国人受入れ政策を実施してきた。日本にいる外国人労働者の受入れは、基本的に、フルタイムの就職が決まった、ある一定の学歴または技能以上の外国人に限られている。そして、単純労働者の長期居住者としての受入れは、日系人に限られている(注4)。そのような外国人住民が日本で長期的に生活する場合に、日本人住民との間に格差が生じたかどうかについては、これまで研究が十分進められていない。数少ない先行研究であるJILPT (2012)は、2010年「国勢調査」の公表データを用いて、外国人と日本人のそれぞれの平均失業率を示した。本稿では、同調査の全数の個票データを用いて少し深堀りを試みる(注5)。
分析した結果は、まず、労働年齢人口において、外国人住民は平均的に、日本人住民より大学・大学院卒の割合が高く、大卒男性の専門的・技術的分野の就業の割合も日本人の大卒男性の1.5倍以上と高い数値であった。これは、長期的に優秀な外国人材を中心に受け入れるという政策の結果だと思われる。しかし、それにもかかわらず、外国人住民は平均的に、日本人住民より失業率が高いことが示された。さらに、日本在住5年以上の外国人と日本人サンプルを利用して分析した結果、年齢、学歴、居住地域、家族構成などをコントロールしても、外国籍を持つことは、日本人より失業する確率が高いことも分かった。例えば、日本在住5年以上の外国人男性のうち、年齢、学歴、居住地域、家族構成など同条件の日本人男性と比べて、韓国・朝鮮出身者は失業率が4.0%高く、中国出身者は失業率が8.1%高く、米国出身者は失業率が2.6%高いことが示された。
原因と課題
日本に居住する外国人労働者は、来日(または就労資格を取得)した際に雇用されているにもかかわらず、長期的に日本で生活すると、日本人より失業する確率が高いことが本稿の分析で示された。確かに、日本における外国人の就業機会について、「人材誘致に関するOECD指標」(注6)によると、対象の35カ国のうち日本は、高学歴の外国人労働者 (Highly educated workers)にとって、就業機会の項目については35位と最下位となっている(注7)。そのような限られた就業機会の状況の中、外国人住民は失業すると、再雇用される確率は日本人より低くなる可能性が高い。
その原因としては、外国人は平均的に日本の労働市場への適応性が低く、失業して新しい職を探す際に、日本の人事採用習慣の戸惑いや言葉の壁等があり、日本人より困難が多いことが考えられる。さらに、Holbrow & Nagayoshi (2016)に指摘されたように、日本企業に外国人が雇用された場合、海外業務のみに従事させられるなど、日本人社員のようなジョブ・ローテーションでのキャリア・アップの機会が少ない傾向がある。このため、キャリアの中で形成したジョブ・スキルはより簡単に代替され、企業が人員を削減する際に失業しやすい可能性があることも考えられる。
冒頭の2020年7月の関係閣僚会議決定「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)」には、外国人の「地域での安定した就労の支援」のために、ハローワークにおける支援が挙げられた。こうした支援をはじめ、高度の専門的・技術的分野の外国人にも適切な再就職支援が届くようなより幅広い施策があれば、日本に長期居住する外国人の失業問題が緩和されるのみならず、今後のグローバルの人材獲得にも有利になるだろう。
本稿は、総務省 2010年「国勢調査」の調査票情報を利用した。JSPS科研費 19K13733の助成を受けた。