学歴と企業規模が仕事満足度に与える影響:なぜ日本人労働者と外国人労働者、および日本と海外で違うか

劉 洋
研究員

仕事満足度の決定要因について、日本企業で働く一般労働者(注1)のデータを用いて検証を行った結果、労働者の教育水準と勤務先の規模は、仕事満足度に正の影響を与えることが、多くの研究で示されている。しかし、海外の多くの研究では、それらについて負の結果が報告されている。そして、筆者が日本企業で働く外国人労働者のデータを用いた分析の結果も、それらに関して負の結果であった。即ち、他の条件をコントロールした上で、労働者の教育水準が高いほど、勤務先の規模が大きいほど、仕事満足度が低い傾向が見られた。本稿はそれらの原因について分析を試みる。

海外の研究結果は日本とは逆

日本の一般労働者のデータを用いて、教育水準が高いほど、仕事満足度が高いことが示された研究は、野崎(2010;教育年数の影響)、太田 (2011;大学院卒の影響)、斎藤 (2016;大卒の影響)と、久米・鶴・戸田(2017; 教育年数の影響)等がある。また、Ishikawa (1994)、Ohashi (2005)と太田 (2011; 表5)に、企業規模が大きいほど仕事満足度が高くなる傾向が示されている。

しかし、海外で働く一般労働者のデータを用いた研究の多くは、逆の結果を示した。Clark and Oswald (1996)、Clark (1997)、Brown and McIntosh (1998)、Gazîoğlu and Tansel (2006)と、Fabra and Camisón (2009)は、教育水準が高いと、仕事満足度が低いという結果になっている。また、企業規模も仕事満足度に負の影響を与える結果は、Idson (1990)、Clark, Oswald, and Warr (1996)、Lydon and Chevalier (2002)、García-Serrano (2011)と、Tansel and Gazîoğlu (2014)に得られた。

日本にいる外国人労働者も逆の結果

筆者が日本企業で働く外国人労働者のデータを用いて分析した結果、教育水準と勤務先の規模は、労働者の仕事満足度に有意な負の影響を与えることが示されている(注2)。それは、海外の多くの研究とは一致する結果であるが、同じように日本企業で働きながら、一般労働者のデータが用いられる先行研究とは逆の結果となっている。

利用したのは企業・労働者のマッチング・データで、(独)労働政策研究・研修機構が 2008年実施した調査に基づくデータである。日本全国の従業員数300人以上の企業と、そこで働く外国人社員(元留学生)が調査対象で、3,018社(有効回収率29.2%)と外国人902名の有効回答が得られた。計量分析に利用できる有効回答における、労働者の学歴は、短大、四年制学部、修士課程、博士課程となっている。企業規模は、「300人未満」、「300-499人」、「500-999人」、「1,000人以上」となる。この外国人データの特徴として、元留学生という日本で高度教育を受けた経験のある外国人労働者であり、直接に日本に就職に来た外国人と比べて、日本の事情を知るため、情報非対称性によるバイアスの可能性が低いと考えられる。計量分析の結果として、まず、先行研究にある日本人労働者と同じように、高い賃金と企業のワーク・ライフ・バランスが外国人労働者の仕事満足度に有意な正の影響を与え、また、労働者の残業の頻度も、職種・業種をコントロールする限りに有意な負の影響が確認された。しかし、教育水準と企業規模(300~1,000人以上)は、日本人労働者とは逆の結果となった。

なぜ両方ともに日本人労働者の結果と異なるか

主な原因の1つは、日本の労働市場の低い流動化にあるのではないかと考える。これを理解するために、まず、経済学分野の仕事満足度そのもの自身について説明する。Lévy-Garboua and Montmarquette (2004)によると、仕事満足度は、仕事から得る金銭的な利益と非金銭的な利益について、現在の仕事と他に就く可能性のある仕事(alternative)と比較した結果によって決められる。現在の仕事から他の可能性のある仕事より得られる利益が高ければ、現在の仕事に満足し、逆に、他の可能性のある仕事より得られる利益が低ければ、現在の仕事に満足しないという考えは、基本的な経済学のモデルが採用している。

特にここで、比較対象となる、他に就く可能性のある仕事は、単に知っている他の仕事ではなく、自分の学歴や職歴に基づいて、自分がアクセスできる労働市場で転職する可能性がある仕事である。そのため、学歴が高い労働者ほど、または、アクセスできる労働市場に転職する機会が多いほど、他に良い仕事に就く可能性が高くなる。それによって、現在の仕事と比べて、他に就く可能性のある仕事の方が利益が高くなる可能性が高いため、現在の仕事満足度が低くなる。

注意すべき点は、仕事満足度は、仕事に関する主観的幸福度(subjective well-being)とは異なることである。Green (2010)によると、満足度は主に他の可能性のある仕事と比較することに対して、幸福度の決定には「ほとんど比較しない」(Green 2010. p.898)とのことである。もちろん、仕事に関して相対的な幸福度という指標はあるが、比較する対象は必ずしも自分が就ける可能性のある仕事とは限らない。さらに、同文献によると、労働の流動性と離職率を説明するには、仕事満足度は仕事の幸福度よりずっと高い指標であるという。

このような考え方に基づくと、日本と海外の研究結果が異なる主の理由の1つは、外部の機会の違いにあると考える。日本では長い間、労働市場の流動性が低いため、日本人労働者は、キャリア・アップするために転職して外部でより良い仕事を見つける習慣は、海外の多くの国と比べて少ない。それに対して、海外では、転職によるキャリア形成は多く見られ、学歴が高く、または、大企業での勤務経験がある労働者ほど、外部での良い機会に恵まれやすいため、現在の仕事より他に就く可能性のある仕事の方が、期待利益が上回る確率が高くなる。

日本にいる外国人労働者を対象とした結果も、日本人労働者と逆となるのは、同じような考え方で、移民労働者の外部の機会に、母国の労働市場が含まれるため、日本人と比べて、外部の可能性を通して得る期待利益が、現職で得る期待利益を上回る確率が高くなると思われる。

結果の留意点と政策含意

以上のように、本稿は、経済学の視点から、学歴と企業規模が仕事満足度に与える影響について、なぜ他国で働く一般労働者と日本で働く一般労働者との結果が異なるか、また、なぜ日本で働く外国人労働者も日本人労働者と異なるかについて、原因の1つの可能性を提示した。即ち、仕事満足度は、現在の仕事と外部で得られる機会を比較した結果で決められるため、学歴が高くなると、または、大企業で働くことによって、それらの海外の一般労働者と、日本で働く外国人労働者は、外部の機会で得られる期待利益は、現在の仕事を続けることによる期待利益を上回るため、仕事満足度が低くなるという結果になったと考える。

今回分析した経済学の原因以外に社会学や心理学などの分野にも原因がある可能性が高いが、ここでは考察していない。筆者の外国人データを用いた結果は、300~1,000人以上の企業に限るものであることに留意が必要である。また、日本で働く外国人の多くはアジア出身者のため、同データもほとんどアジア出身の外国人である。ただし、前述にある、同じように負の結果が得られた海外の研究は、ほとんど欧米のデータを用いたため、欧米出身者もアジア出身者と同じような結果になる可能性が高いと思われる。

政策的含意として、国際移民が世界で増加し、また、優秀人材を自国のみならず世界から獲得するという政策が多くの国で打ち出されている。仕事満足度は、労働者の定着に重要な役割を果たしており(Freeman 1978, Akerlof et al. 1988, Clark et al.1998, Levy-Garbous et al.2007)、そして、生産性にも大きい影響を与える(Böckerman and Ilmakunnas 2012)。労働者の仕事満足度を高める方法を考える際に、移民と本国民の異なる特性(特に外部の労働市場)を考える必要があることが、本稿の分析で示された。また、日本においては、外国人労働者の仕事の満足度について、他の条件が一定の下、学歴が高いほど、大企業で働くほど、満足度が低くなる傾向があるため、工夫が必要だと思われる。

脚注
  1. ^ 日本語で行われた調査で、また、日本で働く外国人は全労働者を占める割合が低いため、ほとんど日本人を対象とした結果だと思われる。
  2. ^ ディスカッション・ペーパー(https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/19e033.pdf)の一部の結果

2021年12月9日掲載

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