日本企業における外国人材の活躍を考える②
日本の外国人材の就業上の特徴と課題

劉 洋
研究員

外国人労働者、特に高スキルの外国人労働者の受入国の経済への貢献は無視できませんが、受入国の事情によっては、寄与する分野や度合いは異なります。日本の場合、企業の海外進出に貢献する外国人材がメインとなる一方、科学技術の進歩とイノベーションに直接寄与する外国人材が占める割合が小さいという特徴があります。

法務省「留学生の日本企業等への就職状況」(平成29年)によると、就職先の職務内容について、留学生の23.3%は「翻訳・通訳」、14.1%は「販売・営業」、9.5%は「海外業務」である一方、「技術開発」は10.6%、「調査研究」はわずか1.5%でした。

このように、高スキル外国人の主な源である外国人留学生の特徴は、翻訳・通訳などの文系が多く、科学技術とイノベーションに直接に寄与する理系が非常に少ないことが挙げられます。他方で、OECDの国際人材に関する報告書によると、国際人材とは、「イノベーションと技術革新に重要な役割を果たす仕事に従事し、経済成長、雇用創出と生活向上に貢献する人々」とされています。日本で求められる外国人材は、日本語の「グローバル人材」と呼ばれる、海外事情に精通する外国人がメインであり、ほかの多くの先進国で求められた、イノベーションと技術革新に貢献する外国人とはイメージが大きく異なっています。

例えば、アメリカでは、STEMと呼ばれる科学・技術・工学・数学分野の外国人材が特に重要視されています。米国の国立科学技術統計センターの2018年のレポートで計算すると、卒業5年後に米国に留まる、博士号を持つ元留学生のうち、理系は86.3%で、文系(13.4%)を大幅に上回ります。日本の近い統計である日本学生支援機構の調査データで計算すると、平成29年の大学院卒留学生で日本に就職した人のうち、理工学系は35.9%と、人文社会科学系の43.6%を下回りました。さらに、前述の通り、同じ年に技術開発および調査研究の職務に就職した留学生はわずか12.1%でした。

このように、日本の外国人材は、日本企業の海外進出に貢献する一方、ほかの先進国で見られる、科学技術とイノベーションに大きく寄与することをあまり期待されていません。次に、この原因について、企業側(労働需要)と外国人材側(労働供給)から分析します。

企業側についてみてみましょう。JETRO「2017年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、日本企業が考える外国人社員の役割は、「販路の拡大」、「対外交渉力の向上」、「語学力の向上」がトップ3である一方、「新たな商品の開発に貢献」と「課題解決能力の向上」は最下位の2つでした。「新たな商品の開発に貢献」はわずか14.3%、「課題解決能力の向上」を期待している企業の割合はわずか10.6%でした。

これは、日本企業の海外進出に外国人材が従事できる業務が多いことを反映する一方、社内の技術については外国人材が関わることへの慎重さも伺えます。背景には、いかに問題を起こさないようにするかということが、日本では何より最優先にされる習慣があるからだと考えられます。外国人を雇うことによって得られる技術革新よりは、技術流出などの問題を起こさないことのほうが重視される傾向が見えます。このように、外国人労働者を雇用する際に、技術革新より海外事業への寄与を重視する企業の姿勢が需要側の原因でしょう。

次に、外国人材側について見てみましょう。ボージャス教授(ハーバード大学)は、労働者の移住に関する意思決定には、平均賃金のみならず、移住先で彼らが持つ人的資本が評価されるかどうかも重要だとしています。また、労働者が持つ人的資本については、移住先で言語の問題があれば、出身国での人的資本は、移住先へうまく移転できないことも明らかになっています。日本の状況から考えると、まず、理系の人的資本を持つ外国人は、文系と比べると、日本語力が低い傾向があるため、スキルをうまく発揮できない可能性を懸念して、日本を留学先として選ぶ人が文系より少ないのです。それから、日本企業は外国人労働者を雇用する際に、理系のスキルよりは文系のスキルを重視するため、理系の外国人は自分の人的資本を低く評価される国を選ばないことも自然です。

このように、日本の外国人材の活用は、翻訳・通訳、販売、海外業務の分野において積極的に進む一方、多くの先進国で見られた技術・イノベーション分野では進んでいないと言えます。ヨアニディス教授(スタンフォード大学)の2005年の研究によると、論文の被引用数で世界で最も高く評価される科学者のグループのうち、約3分の1は自分の出身国とは異なる国に居住しています。そのような人材が日本で活躍できないことは、将来、日本の技術・イノベーションの遅れにつながる可能性があります。確かに多くの日本企業で懸念している技術流出の問題は存在しますが、経済産業省の調査によると、技術流出を報告した79社のうち、「日本で雇用している外国人従業員」による流出は1社であり、「日本人退職者」による流出は30社もあります。社内管理や法などで技術を守るとともに、ほかの先進国のように多岐の分野で外国人材を活用することは、日本経済をよりよい未来へ導くでしょう。

2019年9月15日 生産性新聞に掲載

2019年11月5日掲載

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