2030年の電源構成 原発依存度は15%程度に

橘川 武郎
ファカルティフェロー

東京電力・福島第1原子力発電所の事故から4年近くたって総合資源エネルギー調査会に長期エネルギー需給見通し小委員会が設置され、2030年の日本の電源構成および1次エネルギー構成をどう見通すかの審議がようやく本格的にスタートした。なぜ、こんなに遅れたのだろうか。

その理由は、政治的思惑にある。12年の総選挙、13年の参院選挙、14年の東京都知事選挙と総選挙のいずれの場合にも、自民党は原発政策について中長期的な見通しを明言しない方針をとった。原発に対する国民世論はいまだに厳しいと読んだうえで、原発政策を争点から外したほうが、勝利をより確実なものにできると判断したからだ。このような政治的判断に基づき、安倍内閣は14年4月に閣議決定したエネルギー基本計画でも、原発依存度を含む電源構成の策定を見送った。

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電源構成をめぐる議論については、これまでそうだったように、これからも政治の影が色濃くつきまとうだろう。今年は4月に統一地方選挙が予定されている。これまでの政治手法からみて、政府・自民党は、それ以前には、30年の電源構成をめぐる具体的な数値案を示さないだろう。

しかし、さすがにその後は政治家や官僚による「先送り」は通用しなくなる。温暖化ガス排出量削減の20年以降の具体的枠組みを決定するパリでの第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)の開催が今年11月末に迫っているからだ。その5カ月前の6月にはドイツでサミットが開かれ、地球温暖化対策も議論される。それまでに原発依存度を含む電源構成を決めなければ、わが国は20年以降の温暖化ガス排出量削減目標を明示することができなくなり、国際社会で孤立する。

つまり、4月の統一地方選挙から6月のドイツ・サミットまでの間にあわただしく電源構成が決められる公算が大きいわけだが、この時期は通常国会の真っ最中である。この国会の焦点は集団的自衛権問題であり、同問題に関する自民党案に対して公明党サイドの抵抗感は強い。国会運営対策上、自民党は公明党にカードを切る可能性が大であり、そのカードに30年の電源構成における再生可能エネルギー比率が使われる可能性がある。この比率について、今のところ自民党は21%以上、公明党は35%と言っている。着地点が公明党寄りのその中間値ということになれば、「再生可能エネルギー30%」が盛り込まれることもありうるのである。

しかし、日本の未来を左右する電源構成の決定を、いつまでも政治的思惑に委ねていて良いはずがない。あるべき電源構成の姿を真剣に議論しなければならないが、その際参考になるのは、民主党政権時代に設置されていた総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で12年に提示された3つの案だ(表参照)。

表:2012年の総合資源エネルギー調査会基本問題委員会で提示された2030年の電源構成の選択肢
原発 再生エネ 火力 コジェネ
選択肢(1) 0% 約35% 約50% 約15%
選択肢(2) 約15% 約30% 約40% 約15%
選択肢(3) 約20~25% 約25~30% 約35% 約15%
2010年度実績 26 11 60 3

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表の選択肢(1)は原発反対派、(2)は脱原発依存派(中間派)、(3)は原発維持派の主張であり、筆者は基本問題委員会において選択肢(2)を主張した。原発停止による火力発電所用燃料の輸入拡大により、膨大な国富流出や電気料金の大幅値上げが生じている現実をふまえれば選択肢(1)は支持できず、他方、原子力依存度を東日本大震災以前の水準にほぼ維持する選択肢(3)では、「可能な限り原子力依存度を減らす」という世論(それは安倍内閣の公約でもある)に反すると考えたからである。この立場は今も変わらない。

30年の電源構成における原子力依存度を15%と見通す根拠は、12年の原子炉等規制法の改正で、運転開始後40年を経た原子力発電所を廃止することが決まったことにある。この「40年廃炉基準」には異論もあるが、社会的受容性から見て、定着する可能性が高い。

「40年廃炉基準」を厳格に運用した場合には、30年末の時点で現存する48基のうち30基の原子力発電設備が廃炉となる。残るのは18基1891万3000キロワットだけである。この18基に建設工事が進む中国電力・島根原発3号機と電源開発・大間原発が加わったとしても、30年の原子力依存度は、10年度実績の26%から大幅に低下して15%程度にとどまることになる(稼働率70%として試算)。

なお、コージェネレーション(熱電併給)を15%とするのは、12年の基本問題委員会で、原発反対派も脱原発依存派も原発維特派も一致して推薦した数値だからである。

筆者が提唱する電源構成のうち実現が最も困難なのは、再生可能エネルギーの30%である。再生可能エネルギーには、(A)稼働率が高く出力変動も小さい水力・地熱・バイオマスと、(B)稼働率が低く出力変動が大きい太陽光・風力の、2つのタイプがある。13年度の電源構成に占める比率は(A)が水力を中心に9%、(B)が2%程度である。

送変電ネットワークヘの負担が少ないのは(A)のタイプであるが、水力には開発可能地点の減少、地熱には自然公園法などの規制と温泉業者の反対、バイオマスには物流コストの大きさなどのボトルネックがあり、伸ばす余地はそれほど大きくない。30年の電源構成において(A)タイプの再生可能エネルギーが占める比率は、多くとも15%程度にとどまるであろう。

そうなると、30年に再生可能エネルギー電源30%を実現するためには、稼働率が低く出力変動が大きい(B)タイプの太陽光発電と風力発電の合計比率を15%以上に高めなければならないことになる。確かに、技術革新の進展によって太陽光発電と風力発電のコストは大幅に低下している。しかし、14年に電力各社がFIT(固定価格買い取り制度)で急増したメガソーラー発電のネットワークヘの受け入れを保留したことで明らかになったように、(B)タイプの再生可能エネルギー発電の普及には、暗雲が垂れ込めている。

ここで明確にしておかなければならない点は、最近の受け入れ保留問題は、あくまでFITにかかわる問題だということである。しかし、30年に再生可能エネルギー発電30%が可能か否かという問題は、FITにかかわる問題ではなく、ポストFITにかかわる問題だということを忘れてはならない。

そもそも、「げたを履かせて」導入を促進するFITに依存している限り、30年に再生可能エネルギー電源30%を実現することはできない。実現するためには、市場ベースでの再生可能エネルギーの普及が必要不可欠なのである。

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日本において、太陽光発電や風力発電を市場ベースで導入するうえで鍵を握るのは、送電線問題を解決することである。そのために、どのような方策があるのだろうか。

第1は、今後廃炉となる原子力発電所の送変電設備を活用することである。再生可能エネルギー発電の本格的な拡大に不可欠な送電線問題の解決は、原発廃炉によって「余剰」となる送変電設備の徹底的な活用からスタートすべきである。

第2は、送電線を作る仕組みを構築することである。送電線を作るプロジェクトについて金融市場が的確に評価する、送電線敷設の対象となる地域での社会的受容性を高める、送電線投資に対して政策的に支援する。これらの仕組みを構築することが極めて大切である。

第3は、そもそも送電線を必要としない方式を導入することである。この点では、全国各地にスマートコミュニティーを拡大し、電力の「地産地消」の比率を高めて、送電系統にかかる負荷を減らすことが重要である。また、再生可能エネルギー発電によって発生した余剰電力を使って、発電地点で水の電気分解を行い、発生した水素を消費地に運んで利用する方式も考慮に入れるべきであろう。

2015年3月17日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2015年4月1日掲載

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