まちづくり3法 見直しを問う 地域の現状踏まえ選択を

金本 良嗣
RIETIファカルティフェロー

中心市街地の空洞化は乗車利用の拡大や小売業の業務変化の影響が大きく、再活性化の可能性があるところは例外的だ。法改正によって都市計画規制を強化できるようになった場合も、地方自治体は規制について周到な政策評価のうえで適切に選択する必要がある。

巨額補助でも状況改善せず

中心市街地活性化のための「まちづくり3法」の見直しが議論されている。自民党の選挙公約に盛り込まれていたので、見直しの法律が次期通常国会に提出される公算が大きい。

中心市街地問題は現象的にはわかりやすい。以前は都市の中心としてにぎわっていた商店街が、現在では閉鎖店舗が並ぶシャッター街と化し、週末でも閑散としている。こうした状況を見て、何とかしなければならないと思っても不思議ではない。実際に、三大都市圏とブロック中枢都市(福岡、札幌など)を除いては、中心市街地がさびれているところがほとんどである。都市圏人口が30万人から40万人になる県庁所在都市でも空き店舗が増えている。

中心市街地問題のように「症状」がわかりやすい問題は、かえって「政府の失敗」を招きやすい。「症状」にとらわれ、その「原因」の分析がおろそかになりがちだからである。

因果関係の分析をきちんと行わない短絡的な対処療法はほぼ確実に失敗する。中心市街地政策もその典型である。1998年に中心市街地活性化法が制定され、これを含む、いわゆる「まちづくり3法」によって中心市街地活性化政策が推進されてきた。ところが、年1兆円規模の国からの補助がつぎ込まれてきたにもかかわらず、状況は改善していない。総務省が出した「中心市街地の活性化に関する行政評価・監視」でも、「統計指標の動向等から判断すると、中心市街地の活性化が図られていると認められる市町は少ない」と指摘している。

政策の見直しのためには、なぜこれまでの政策が成功しなかったのか周到な分析が必要である。それにもまして重要なのは、中心市街地問題に政策的介入が必要なのかを問い直すことである。十分に強い政策を打てば、中心市街地は必ず活性化する。例えば、郊外への出店を全面的に規制してしまえば、住民は中心市街地に行かざるをえない。しかし、これは住民の利便性をはなはだしく損ねるので、望ましい政策かどうか疑問である。

政策的支援にもかかわらず中心市街地の空洞化が進んだのは、中心市街地の相対的優位性が失われてきたからである。大まかにいって、これには2つの要因がある。第1に、郊外ショッピングセンターや幹線道路沿いの店舗に比較して、中心市街地の立地面での優位性が失われてきた。この最大の原因はモータリゼーションの進展である。乗用車の保有台数は最近20年間で倍以上になっている。特に地方圏では自動車普及率が急速に上昇し、1世帯あたり1.5台を超える県が多い。

ちなみに、東京都の保有率は1世帯あたり0.5台を若干上回る程度である。東京の住民(政策担当者も含む)は地方圏での生活の実態を認識していないことが多い。「歩いていけるまちづくり」というスローガンは東京圏では実態とそれほどの乖離はないが、地方圏での生活実態とはかなりの距離がある。

市街地商店街は住民の支持失う

モータリゼーションに伴って住宅が郊外に拡散した。これは、所得水準が上がって、より広い住宅を求めるようになったことから当然の結果である。郊外の住民にとって、中心市街地ははなはだ不便である。放射状ネットワークの常として、外側から中心部に入るところで渋滞が必至で、駐車場も少ない。バイパス道路や環状道路が整備された後では、1000台規模の広い駐車場がある郊外ショッピングセンターの方がはるかに便利である。

中心商業地のもう1つの問題は、経済の進歩に伴う小売業の業態変化である。東京の区部においてもシャッターが下りた店舗が並ぶ商店街は多い。これまでと同じやり方では小売業はやっていけなくなった。経済成長に伴って人件費は一時代前の数倍になっている。旧態依然の商店では、人並みの生活ができるだけの稼ぎをもたらすことはできない。

人件費の上昇に対処するためには、徹底的な合理化を行うか、消費者に評価される付加的なサービスを提供する必要がある。郊外ショッピングセンターや幹線道路沿いの店舗は、徹底的な合理化とともに、消費者を引きつける様々な工夫を行ってきた。中心市街地の商店街の多くはこのような進歩に取り残され、消費者の支持を失っている。

モータリゼーションと経済の進歩に伴って中心市街地の優位性が失われたことを考慮すると、中心市街地政策を評価する際の最初のハードルは、その政策によって活性化が実現するかどうかである。これまでのように、国からの巨額の支援にもかかわらず、中心市街地の衰退が続くということであれば、税金の無駄遣いである。

公共交通の存続などの条件必要

人口50万人以下の都市圏の多くは、自動車依存型になっており、これを公共交通ベースの都市に作り直すのはほとんど絶望的である。たまたま、鉄道や路面電車のような利便性の高い公共交通機関が生き残れる条件のある都市圏や、美しい町並み・伝統が残っていて都市アメニティーとしての魅力が大きい中心市街地は再活性化が可能かもしれないが、こういった都市圏は例外的であろう。

現在検討されている新しい政策の主要なものは、郊外部における大規模開発に対する都市計画規制の強化と、中心市街地に対する財政支援の有効性確保のための措置(選択と集中の強化など)である。後者については、財政が厳しい折から大きな効果をもたらす改革は期待薄である。中心になるのは、前者の都市計画規制の強化である。

都市計画規制強化の主たる効果は、都市圏外縁部における大規模ショッピングセンターなどの立地が難しくなることであろう。しかしながら、すでに中心市街地の空洞化が進んでいる地方都市の多くにおいて、こういった措置が中心市街地の再活性化をもたらす可能性は小さい。

もちろん、規制強化が積極的な効果をもたらすケースがないわけではない。前述のように、鉄道などの公共交通機関が維持可能な地域では中心市街地の役割が期待できる。また、中心市街地に魅力的な町並みが残っているケースも、それを活用した活性化が期待できるかもしれない。欧州の都市で中心市街地が再活性化した例の多くは、城壁に囲まれた古くからの魅力的な市街地や大聖堂などがあるケースである。また、谷間に立地する都市や積雪地帯の都市では、コンパクトな都市が形成される条件があるかもしれない。

今回の「まちづくり3法」の見直しは、国レベルの制度設計であり、実際の意思決定は地方で行われる。各地域の現状をふまえた適切な選択がなされるためには、代替案の分析を含めた周到な政策評価(費用便益分析)が必要である。

中心市街地政策の評価において核となるのは、郊外大規模店舗が出店できなくなることによる住民の利便性低下を上回るだけの社会的便益が発生するかどうかである。住民の利便性低下による社会的損失を定量的に評価することは容易でないが、交通パターンの変化などを予測することによって推定が可能である。

ショッピングにおける利便性低下は立地規制の直接的効果であるが、その他の要因は間接的効果である。価格体系の歪みがない(価格が社会的限界費用に等しい)ケースでは、間接効果は相互に相殺することが知られている。したがって、間接効果の評価のためには、価格体系の歪みをもたらしている外部経済・不経済の大きさを推定しなければならない。例えば、郊外での自動車交通が公共交通機関に置き換わることによって温暖化ガスの排出が減少するといった便益がある。これについては、温暖化の外部費用の推計値を用いて推定することになる。

中心市街地政策の評価については、分析手法も、分析に必要なデータの整備も、きわめて不十分である。誤った政策を採用しないためには、これらについての取り組みを急ぐ必要がある。

2005年12月8日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2005年12月15日掲載

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