人工知能(AI)等と「雇用の未来」「人材育成・働き方」

岩本 晃一
上席研究員(特任)

1 はじめに

2013年9月、オックスフォード大学のフレイ&オズボーンは、米国において10~20年内に労働人口47%が機械に代替されるリスクが70%以上という推計結果を発表(Frey & Osborne(2013))し、それを契機として、世界中で「雇用の未来」に関する研究ブームが発生した。研究はめざましいスピードで進み、日々、新しい研究成果が発表された。

だが、日本はそうした研究ブームとはほとんど無縁で、メディアがフレイ&オズボーンの推計結果について、「人工知能が雇用の半分を奪う」という表現を繰り返すのみで、その後の新しい研究成果を取り上げることなく、人々の不安を煽ってきた。「47%という数字は本当か?」という疑問が、筆者が本テーマに取り組み始めた動機である。

人工知能は、人間の雇用を奪うのではないかという国民の危惧は、人工知能の技術開発の足を引っ張ることにつながる。漠然と人工知能に対して不安感を持つのでなく、科学的データや客観的な根拠を示して事実に基づいた科学的で冷静な議論が必要であると考えた。

2 一連の研究結果の要点

筆者による一連の研究から得られる結論の要点を述べると以下の通りである。

① 将来、約半分の雇用者が機械に代替されるというフレイ&オズボーンの推計値は現在では、ほとんど誰も相手にしていない。過大な推計値が出るという、ある意味で計算ミスが指摘されたからである。職の全体量の増減についていえば、OECDが発表した、約1割が代替される、という推計値が、専門家の間での合意である。更に、人々の努力で新しい産業を生み出すことができれば、新しい雇用が創出され、その結果、雇用の総量自体は、ほとんど変わらないか、もしくは増加する、というのが世界の専門家の間で合意された認識である。このように、雇用の総量の増減自体を見る限りは、さほど大した社会問題を生じないが、今後スキルベースでの労働需給ミスマッチが社会問題として顕在化してくる可能性がある。

② 新しく創出される職業は何かと聞かれても明確には答えられない。20年前のスマホが出現する以前、アプリを開発したり、スマホを使ってネット販売をする企業がここまで急増するとはだれも予測していなかった。それと同様である。

③ 雇用の総量の増減よりも、もっと重要な点は、オーター(Autor)の分析によって明らかとなった「これまでもルーティン業務が機械に代替されてきたが、これからもルーティン業務が機械に代替される」という「雇用の質」「雇用の構造」が変わっていく点である。我々人類は、こうした「雇用の質」「雇用の構造」の変化に対して、早急に対応しなければならない。なぜなら、これまで人間の仕事を代替してきた機械は単純なものであったが、これから出現する機械は、「とても複雑で細かいことができるスマートな機械」「人間の脳のような人工知能」「人間の腕のような非常に細かい運動ができるロボット」だからである。我々は、そうした機械と一緒に働き、共存できるよう、そのために必要なスキルを身に付けなければならない。

④ 更にもっと重要な点は、「とても複雑で細かいことができるスマートな機械」「人間の脳のような人工知能」「人間の腕のような非常に細かい運動ができるロボット」が人間の高スキルな「ルーティン業務」まで代替するようになることで、社会の経済格差が拡大することである。中スキルの人々の職が失われ、低スキルの職に落ちていき、低スキルの職の総量はほとんど変わらないのに、労働者の数の方が多くなって賃金が上がらず雇用が不安定になるという現象が生まれてくると予想されている。筆者は、「AIと雇用」の問題を語る上では、この「経済格差」の問題こそが最も重要で深刻な課題であると認識している。既に米国で起きている社会現象がこれからも日本で起きると予想される。

⑤ 日本は、米国やドイツに比べて、IoT,AIなどの導入が遅れている。遅れている要因はいろいろとあるが、遅れているために、企業の競争力が低く、結果、日本企業はこれまでグローバル競争で負け続けてきた。特に電機業界がそうである。いくつかの著名な企業の動向を思い浮かべれば、理解できるだろう。だが、幸いなこと(?)にデジタル化が遅れたために、社会の経済格差は、まだ深刻化していない。

⑥ だがそうした日本でも、銀行業界では既に動きが現れている。来春卒業の大学生の就職活動で、メガバンク3社で一般職を合計900人の採用減、みずほフィナンシャルグループは一般職は約7割減、とのことである。またメガバンクは、今後、AI導入を進めることで各社とも数万人規模のリストラをすると発表している。銀行業界は、最近実用化された人工知能「RPA(Robot Process Automation)」を急速に導入を進めており、高スキルのルーティン業務の代替を急いでいる。

⑦ 日本のこの事例が示すように、高スキルのルーティン業務が機械に代替されることで、職を失う多くは、男性よりも女性、正規よりも非正規、総合職よりも一般職であるという指摘がいくつかの機関からなされている。現在、米国で生まれている「高学歴ワーキングプア」である。もしそうであるならば、日本でも彼ら彼女らの雇用対策を検討しなければならない。

⑧ 日本が米国の後を追って、社会の経済格差が深刻化してくるのは、これからだろう。日本は米国という貴重な前例を参考にして、そのための準備をしておかないといけない。

⑨ さいごに、一連の研究のなかで最も大きな貢献をしたのは、米国MITのオーターとドイツZEW研究所のアーンツである。2人の大きな功績を称賛したい。

3 フレイ&オズボーンとドイツの「労働4.0」プロジェクト

3 - 1 フレイ&オズボーンの推計値

2013年9月、英国オックスフォード大学の若い2人の研究者カール・ベネディクト・フレイとマイケル・A・オズボーンの2人が共同で執筆した論文「The future of employment ; how susceptible are jobs to computerization」を発表した。論文の内容は、非常に衝撃的で、「米国において10~20年間に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが70%以上」という推計結果であった。

「47%という数字は本当か?」と世界中の研究者が疑問を持ち、世界中で一斉に研究がスタートし、次々と論文が発表され、新しい研究結果が次々と公表された。だが、先進国のなかで、唯一といえるほど、日本では、フレイ&オズボーンが2013年に発表した47%という数字が継続的にメデイアで取り上げられ、「人工知能が導入されると半分の仕事が奪われる」といった形で表現され続けた。フレイ&オズボーン以降の次々と出てくる新しい研究成果が日本のメデイアで取り上げられることはなかった。

フレイ&オズボーンについては、筆者は、世界的な議論のブームの火付け役としての役割は評価しているが、彼らが発表した47%という数字は、世界中で発表された数多くの論文のなかで最も極端な部類に属する。アーンツ(Arntz)も、作業(タスク)の全てが必ずしも代替可能ではないため、職(ジョブ)そのものが代替可能とすることを前提に試算したフレイ&オズボーンの試算は過大であると指摘している。メラニー・アーンツ(Melanie Arntz)は、ドイツZEW研究所の「労働市場、人的資源、社会性悪政策」部門のNO2である。

2016年10月、マイケル・オズボーン准教授が来日した際、「どのような意図、いかなる前提で試算したのか」と質問したところ、「技術的な可能性を示しただけ、雇用増の部分は一切考慮していない。」との回答であった。

(図1)2010年に米国に存在する全職業の機械代替可能性の分布
(図1)2010年に米国に存在する全職業の機械代替可能性の分布
注) 米国に存在する702の職業を左から順に、機械への代替可能性0から始まって、右に向かって代替可能性100%まで並べる。その各職業ごとに、米国において従事している雇用者数を縦にプロットする。
出典)Frey & Osborne[2013]

3 - 2 ドイツ政府が委託したZEW研究所の推計値

「雇用の未来」を、国として最も深刻に捉え、その課題に政府主導で取り組んできたのがドイツである。ドイツも私と同じ問題意識(47%は果たして正しいのか?)を持ったようだが、調査研究の規模において、日本の比ではなかった。多くの資金を投じ、多くの人員を動員して実施した。

ドイツ連邦政府の労働社会省は、「労働4.0(Arbeiten4.0、英Work4.0)プロジェクト」を実施してきた。ドイツ最大の労働組合IGメタル出身のアンドレア・ナーレス大臣が、同プロジェクトを推進した。ドイツでは、「独り勝ち」の経済の源泉である製造業を支える製造現場の労働者、すなわちIGメタル会員の仕事がどうなるかが最大関心事であった。

筆者がドイツを訪問し、インダストリー4.0や労働4.0分野の専門家と意見交換して感じたことであるが、「独り勝ち」と言われるほど強力な経済力を生み出している製造業分野で、もし第2の「ラッダイト運動」が起きれば、経済は壊滅的になるという恐怖がドイツの人々の脳裏を横切ったのではないだろうか。ラッダイト運動とは、1811~1817年頃、イギリス中・北部の織物工業地帯に発生した。産業革命の機械化により、失業の恐れを感じた労働者が起こした機械破壊運動のことである。今から約200年ほど前に英国で起きたラッダイト運動は、いまでも欧州の人々の脳裏に生々しく残り、語り継がれている。私が意見交換したドイツの専門家からもラッダイト運動という言葉は何度か聞かれた。そのドイツも、2016年11月、「白書:労働4.0」(White Paper, Work 4.0)を発表し、調査分析は一段落ついた。

フレイ&オズボーンの推計値が発表された直後、ドイツ連邦政府は、マンハイムにあるZEW研究所(Zentrum fir Europaishe Wirtschaftsforschung GmbH)に委託調査し、フレイ&オズボーンの計算を再試算して、再び米国及びドイツに適用したところ、米国では9%、ドイツでは12%になったと発表した(2015年6月)。その前提は、フレイ&オズボーンと同じ「技術的な可能性を示しただけ、雇用が増える部分は一切考慮せず」である。このレポートは、ドイツ語で書かれ、ドイツ国内に向けて発表されたものである。

2013年4月、ドイツでは、「全自動無人化工場」をインダストリー4.0の構想として発表が行われ、そのわずか5ヶ月後の2013年9月、フレイ&オズボーンが、「米国において10~20年以内に47%の労働者が機械に代替されるリスクが70%以上」、との推計を発表したため、あるドイツ人専門家に言わせると「ドイツ国内はパニック状態になった」とのことであった。それを鎮静化させる目的があったものと思われる。

筆者が2016年3月にドイツに出張し、インダストリー4.0や労働4.0分野の研究に従事している専門家らと議論した際、彼らは、フレイ&オズボーンの推計値のことを「根拠のないいいかげんな数字」「彼らは人間のやることは全て自動化できると信じ込んでいる」と批判していた。

米国におけるフレイ&オズボーンの推計値は47%だが、ZEW研究所の推計値は9%である。一体、なぜこのような大きな違いが生まれたのか?その理由は、推計方法の違いにあった。先ほどのアーンツの発言にも表れている。

フレイ&オズボーンの推計では、職(job)ごとに機械への代替可能性を考えた。だが、ZEWは、職(job)、仕事(work)、作業(task)という3つの概念を導入したのである。特に大切なのは、作業(タスク)という概念である。例えば、「売り子」という職(ジョブ)が行う仕事(ワーク)は、以下のように、1つ1つの作業(タスク)に分解される、と考えるのである。

「売り子」という職(job:ジョブ)が行う仕事(work;ワーク)を構成する作業(task;タスク)
客に笑顔で笑う。 →いらっしゃいませという。 → 商品を説明する。 →価格を伝える。 →お金をもらう。 →商品を渡す。 → お釣りを渡す。 →お礼を言う。

フレイ&オズボーンは、1つ1つの「職(ジョブ)」ごとに、機械への代替可能性を試算したが、「作業(タスク)」という概念を導入することで、1つ1つの「作業(タスク)」ごとに、機械への代替可能性を試算するという、より緻密な計算ができるようになった。と同時に、1つ1つの「作業(タスク)」について、過去、機械に代替されたかどうかを検証する作業も進行した。そうすると、47%であった推計値が、9%になったのである。

アーンツの発言にもあるように、現実的には、機械化が進むと、1人の労働者全体が代替されるのでなく、その労働者が行っている様々な作業(タスク)の一部が機械に代替される。機械化が進めば、代替されるタスクは増えるが、いまだに人間そのものを100%代替可能な機械は発明されていない。すなわち、テクノロジーの進歩に伴って、機械が行うタスクと人間が行うタスクの分化が進むのである。だが、フレイ&オズボーンは、そういった現実に沿わない1人の人間全体が代替されることを前提に試算したため、過大な数字になったものと考えられている。

3 - 3 アーンツ&グレゴリーらとOECDの研究成果

次いで、アーンツ&グレゴリーらは、フレイ&ポズボーンが作成した職(ジョブ)ベースでの機械への代替可能性の(図1)を、作業(タスク)ベースで改めて作成しなおしたところ、(図2)のようになった。フレイ&オズボーンの図は、真ん中が下がり、両側が上がっている凹型の図であるが、アーンツ&グレゴリーらの図は、まったくその逆で、両端が下がり、真ん中が突出した凸型となった。アーンツ&グレゴリーらの図では、「労働者の9%が機械への代替リスクが70%以上」となった。

2016年、OECDは、加盟各国ごとの機械代替リスクを試算した結果を発表した。それは、代替リスクが70-100%と50-70%の2種類である。その結果を見ると、機械代替リスクが70-100%の労働者の割合は、オーストリアで12%、米国で9%、ドイツで6%、日本で7%、などとなりOECD平均で9%となった。また、低水準の教育を受けた労働者の40%は、自動化によって消失する仕事に従事している。ほぼ全ての国で、教育水準の低い労働者は機械に代替されるリスクが最も高い。

(図2)アメリカにおける各職業の自動化可能性(PIAACデータを元に算出)
(図2)アメリカにおける各職業の自動化可能性(PIAACデータを元に算出)ク
出典)Arnz, Gregory, & Zierahn(2016)
(図3)OECD加盟諸国の機械への代替リスク
(図3)OECD加盟諸国の機械への代替リスク
出典)the Survey of Adult Skills(PIAAC)(2012) とArntz, M. T. Gregory and U. Zierahn(2016)をもとにOECDが作成

(図3)を見ると、日本は他国に比べて機械への代替可能性が小さい。そして実際に、(図5)を見ると機械への代替は現実的に小さくとどまっている。ではなぜ日本にはこうした特徴があるのだろうか?その答えは、実証されたわけではないが、以下のように考えられる。

日本には「非正規雇用」という労働コストが安い労働力が大量に存在する。厚生労働省によれば、昭和59年度の非正規雇用は、総雇用者数の15.3%、604万人だったが、その後急速に増え、平成29年度には、総雇用者数の37.3%、2036万人となっている。その平均賃金(平成29年6月分)は、時給ベースでみれば、一般労働者(正社員・正職員)が1937円であるのに比べ短時間労働者(正社員・正職員以外)は1081円である。

日本の会社の中に「非正規」が大量に増えた時期は、米国では、情報化投資が行われて、ルーティン業務で働く人間を機械で代替していった時期と重なる。だが、日本のように、会社のなかに賃金が「正規雇用」に比べて約半分の雇用者が4割近くもいれば、しかも、日本の経営者は、「あのような難しいことは、おれにはわからん」と公言する人が多く、複数の統計によれば情報化投資にとても悲観的であることが明らかとなっており、そうした事情を背景にすれば、「非正規にルーティン業務をやってもらいなさい」となることは容易に想像がつく。

3 - 4 ドイツの「労働4.0」プロジェクト

ドイツ連邦政府労働社会省所管のIAB(ドイツ労働市場・職業研究所、The Institute for Employment Research)は、2016年12月、決定版ともいえる極めて詳細な推計を発表した。2035年、ドイツにおいて失われる雇用146万人、創出される雇用140万人とほぼ同数であることを示した。

2020年 2025年 2035年
雇用創出(万人) +72 +151 +140
雇用消失(万人) ▲71 ▲154 ▲146

ドイツの「労働4.0」プロジェクトの一部の重要な役割を担ってきたフラウンホーファーIAO(Arbeitswirtschaft und Organisation:労働・組織)研究所の見解は、「世の中に出ている推計値は全て間違っている。だからといって、我々が正しいと考える推計値は出さない。推計値がどうあれ、技術の進歩に対応できない人は失業の可能性が大きい。そのため、職業再訓練を充実化させ、失業を低く抑えることに我々は最も注力する。現在、職業訓練所のカリキュラムにデジタル化の内容を組み込む作業が進行中である。」となっている。

「世の中に出ている推計値は全て間違っている。」と言い切った背景には、将来のデジタル・ビジネスモデルが現時点でまだまだほとんど見通せないこと、そしてもし技術が完成したとしても、その技術を現実的に実用化できるまでの時間、費用対効果が見合うようになるまでの時間、古い機械設備と入れ替える時間など不確定要素が多すぎる。そして、今まで使い続けてきた機械設備でできるのなら、どうして入れ換えないといけないのか、という意見も出るといった理由からである。

例えば、同研究所の研究員が、グーグル・ドイツ社長に「20年後の貴社の雇用形態はどうなっているか」とインタビューしたところ、「20年前、この世に存在していなかったグーグルが、どうして20年後を予想できるのか。」と返されたとのこと。この分野の研究の難しさを現しているエピソードとして紹介してくれた。

同研究所の研究員はまた、ドイツでは、「雇用の未来」は、「まるで水晶玉をのぞき込むようだ」と言われていることを紹介してくれた。魔女が持っている水晶玉を覗き込むと、そこには未来の景色が見えるが、それは本当の未来なの?単なる幻影ではないの?という状況を例えている。

4 オーターの傑出した研究成果;過去40年間減少を続けるルーティン業務の雇用者数

これまでに発表された世界中の論文のなかで、恐らく、最も世界に大きな影響を与えた重要な分析は、デイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)の分析である。同氏は、ハーバード大で修士・博士を得て、現在MITで教授をしている。労働経済学が専門で、これまで、Econometric Society(2014)、American Academy of Arts and Sciences(2012)、Society of Labor Economists(2009)などで賞を得ている著名な研究者である。

米国におけるスキル別職業の割合の10年毎の変化(図4)を見ると、

第一に、中スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと減少を続けている。
第二に、低スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと上昇を続け、かつ、上昇スピードが加速している。
第三に、高スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと上昇を続けているが、上昇スピードが減速している。
第四に、雇用が失われる境界が、より高スキルの職の方に移動している。
第五に、職を失った中スキルの労働者のうち、高スキルに移動する者はごく少数で、大部分は、低スキルに落ちていることがうかがえる。
第六に、情報通信技術の進歩が、いまの米国の経済格差を発生させている大きな要因であろうことがうかがえる。

OECDでは、米国、EU、日本の3ヶ国について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算した(図5)。米国は、上述のオーターの分析のとおりである。3ヶ国を比較すると、米国が最も変化が大きく、日本が最も変化が小さい。

米国は、2002年以降、中スキルのルーティン業務の労働者を解雇してきただけでなく、中スキルの非ルーティン業務の労働者も解雇してきた国である。一方、高スキル者を自社内で養成したり新規雇用するなど、高スキル者の獲得に努めてきた。

(図4)米国におけるスキル別職業の割合の10年毎の変化
(図4)米国におけるスキル別職業の割合の10年毎の変化
出典) 1980, 1990, and 2000 Census Integrated Public Use Microdata Series(IPUMS)よりAutor(2015)が作成
(図5)スキル別の職業ごとの労働者比率の変化(米国、EU、日本、2002年から2014年まで)
(図5)スキル別の職業ごとの労働者比率の変化(米国、EU、日本、2002年から2014年まで)
注)EUはEU-LFS、日本は労働力調査、米国はBLS Current Population Survey
出典)EUは EU-LFS、日本は労働力調査、米国はBLS Current Population Survey

米国と比較した日本の特徴は、本来は米国のように機械化を進めて解雇できた筈のルーティン業務の雇用者でも、ほとんど解雇していない。さらに米国との大きな違いは、高スキル者の獲得又は養成にほとんど無関心であったことである。これでは、インターネット元年以降の米国とのグローバル競争に負けてきたこともうなずける。

日本企業は、雇用の現状維持の傾向が強く、技術進歩に伴って本来であれば機械で代替できる部分で人間が働いていたり、新しい時代を牽引する高スキル人材を養成していない。技術進歩に応じた雇用状態が合っていないため、生産性低下、企業競争力低下を招いているものと思われる。順送り人事、過去と同じ業務の繰り返し、働き方の現状維持、の結果と言える。

技術進歩にもかかわらず、雇用の現状維持を続けることは、企業のイノベーションの足を引っ張り、生産性の低下、競争力低下につながり、米国企業などとのグローバル競争に負ける要因の1になっている。

1人1人の雇用者に注目して、その人の雇用を守るために本来であれば機械で代替できる領域で人間が働いていることが本当に雇用を守ることなのかどうか、わからない。日本の過去の実績を見れば、個々の雇用者を守るために、技術進歩にも関わらず、旧態依然とした雇用形態を存続させた結果、生産性が落ち、企業競争力が落ち、米国との競争に負け、大量リストラにつながってきたことがわかる。大規模リストラの方が、社員と家族にとってはもっと悲惨であろう。

5 日本の雇用はどう変わるか

次に日本の現場の動向をご紹介したい。雇用慣行、雇用制度、雇用政策等は各国により大きく異なっているので、日本は、新技術の導入に対応する雇用への影響が、ドイツとも米国とも異なっているのではないか、との思いで、現場を訪問し、インタビューを重ねてきた。日本では新しい技術が現場に本格的に導入され、かつ実績が出ている大企業製造業はまだ数社程度しかないので、1社ずつ訪問し、日本の動向を調査した。

調査結果を総括すれば、今の日本では、人口減少・少子高齢化により現場の熟練作業員が不足し、その労働部分を機械が代替する、または多品種少量生産が増え、人間への負荷が増しているため、人間を「エンパワー」するために、新技術が現場に導入され、現場も歓迎するという形態で導入されている。1990年代、日本は工場の機械化、自動化、省力化投資が盛んだったが、今は、機械(人間)に得意な作業は機械(人間)に任せようとの空気があり、それは「人と機械の調和」と呼ばれている。ある会社の幹部は「当社のシステムのコンセプトは、『人が中心』である」と強調した。またある会社の幹部は「現場から急速に熟練作業員がいなくなっている。投資が回収できるかどうかの問題ではない。背に腹は代えられない」と強調した。企業の競争力の根源である熟練作業員を大切にしたいという思いが込められている。これが今、日本で進行している「日本型」と言えよう。

また、経済産業研究所では、2017年8~10月、日本企業約1万社に対して、日本の産業界におけるIoTの動向把握を行うアンケート調査(平成29年度「我が国の企業のIoTに関する調査」)を行った。その調査項目のなかに、「雇用への影響」及び「人材育成」に関する質問項目を含めた。

調査概要;実施時期 2017年8~10月、対象 日本企業10,075社、回収 1,372社(回収率13.62%)

新技術導入により雇用者数が「減少した」と回答した企業は、34社であり、「増えた」と回答した企業数は43社である。後者の方が9社多い。この結果から、日本の産業界では、少なくとも現時点では、新しい技術の導入により、雇用が減少した企業数より、増加した企業数のほうが多い。

これまで、世界中から発表された論文等では、新しい技術の進展により、ルーティン業務などの事務労働が機械に代替されるなど効率化・合理化されるため、まず一旦、雇用が減り、その後、新しい技術の時代に相応しいスキルを持った若者が出現し、雇用者が増えてくると予想されている。ところが、少なくとも本アンケートから理解される範囲では、日本では、そうした論文等の予想に逆行し、日本全体からすれば、まず雇用が増えるところからスタートしている。ここには、日本型雇用が深く影響しているものと想像される。

(図6)アンケート調査から読み取れる日本企業の動き
(図6)アンケート調査から読み取れる日本企業の動き

新しいデジタル技術を導入すると、それを稼働させるための専門技術者、例えば、データサイエンティスト/データエンジニアなどが現場で必要とされる。その傾向は、製造業の現場で顕著である。一方、銀行金融業などでの事務部門では、「ルーティン業務の機械化」が過去から継続して現在でも進行しており、事務職の削減が続いている。

その増加分と減少分を現時点で合計したところ、減少分よりも増加分の方が多い、それは事務部門のデジタル化よりも製造業の現場のデジタル化の方が、日本企業は熱心に進めているからと言える。

6 日本に必要な雇用・社会政策

これまでに述べた世界の論文等、日本におけるアンケート調査・現地調査等の調査分析結果から、必然的に導出される今後取るべき対策を以下に挙げる。

1)第4次産業革命という新しい時代を牽引し、世界とのグローバル競争に勝つためのリーダーの育成である。

2)人間でなければできない仕事を担う人材の育成である。具体的には、過去の前例を「学習」し判断するといった過去の前例の延長線上にある判断やルーティン業務はAIに代替されていくので、①過去に前例のない事柄や新しい創造的な仕事、②デジタル機器を使いこなしてデータ分析をしたり、科学的な経営のサポートをする人材、③コミュニケーション能力・対人能力を持った人材、④常に人工知能AIを最新版としておくために常に進んだAI技術を取得しておく人材が、今後必要とされている。大きな変革の時代にあっては、過去の前例や経験だけでは将来を議論できない。そもそも過去の前例を「学習」し判断するといった過去の前例の延長線上にある判断やルーティン業務はAIに代替可能な業務なので、そこは機械に任せて、新しい未知の時代を切り開くスキルを持った人間が必要になってくる。

3)日本はこれまで現場の熟練作業員を大切にしてきた歴史があり、今、現場に導入しつつある新しいシステムも、彼らを最大限活かす内容となっている。新しいシステムは、基本的には「見える化」までであり、データを見て、対策を考えるところは依然として熟練作業員が担っている形となっている。だが、現場では、過去の前例を「学習」し、計測されたデータを見て、判断するといった過去の前例の延長線上にある作業は、早晩AIに代替されていく。現在、熟練作業員が担っている業務の多くが機械に代替される日はすぐそこまで来ている。ドイツでは、ものづくりの現場を支えてきた熟練作業員をどうするのか、深刻な課題として捉えられている。ドイツでは、新しい技術が導入された際、これまでの古い技術の下で働いていた労働者の雇用を守るため、新しい技術の下で働けるよう、再教育・再訓練する必要性の認識が高まっている。日本でも、まだ熟練作業員が働く意欲満々のところに、彼らに代替可能な人工知能が発達してきたら、一体、どうするのか、考えておかないといけない。

4)アンケート結果からも、銀行金融では事務部門の解雇が進んでいることが明らかとなった。銀行金融では、雇用が増えることはなく、常に雇用は削減の方向である。折しも、最近、メガバンクが大量の人員削減を発表した。世界の論文等が予想している「ルーティン業務の事務職」の削減は、雇用者のなかでボリュームが大きいだけに、これから彼ら彼女らの再雇用が大きな課題となってくる。

5)IMFが指摘しているように、情報化投資は、経済格差を生み出す最も大きな要因だが、イノベーションは企業競争力の源泉なので、格差を防ぐためにイノベーションを止めることは本末転倒である。情報化投資を通じてイノベーションを図りながら、そこから生じる格差を縮小させるために、税による富の再配分をどうするか、考えないといけない。各国のジニ係数の所得再配分の前後及び時間的推移を見ると、米国は、所得再配分前に大きな格差があるが、再配分機能が弱く、かつ格差が時間的に拡大している。ドイツは、再配分前は大きな格差があるが、再配分機能が強く、格差が縮まっているものの、時系列的に見れば、格差は拡大している。日本は、時間的に格差はほとんど変化しないものの、再配分がほとんど機能せず、ドイツを凌ぐ格差がそのまま残っている。

7 さいごに

最後に、パソコンを例に挙げて考えてみよう。パソコンは、私が20~30代に職場で普及した。今、電子メールにCCをつけて転送するが、パソコンがなかった時代には、全て紙にコピーし、関係者に配布して配っていた。大量の書類を抱えてビルの上から下まで何度も小走りで往復した。私の仕事の約半分の時間は、コピーと資料の配布であった。パソコンが発明された陰で、タイピストが職を失った。人間らしい手書きの文字は、無味乾燥な活字の印刷文字になった。パソコンのキーボードを人差し指1本でしかたたけないおじさんは、どこかに左遷された。

では、こうした一部の人間の雇用を守るために、企業ではパソコンの全面使用禁止を打ち出すことが最良な選択なのだろうか?パソコンを使わず、電話、コピー、ファックスだけで仕事をしろと職員に命令することが最良な選択なのだろうか?

そのような選択が間違っていることは誰でも直感的にわかるだろう。もしそうすれば、その企業はたちまち、国際競争力を失い、倒産し、社員とその家族は路頭に迷うことになるだろう。そのほうが悲惨である。

そうではない。企業は日々進歩するイノベーションの一歩先を行き、世界のグローバル競争に打ち勝ち、売り上げを伸ばし、総雇用数を増やすのである。それこそが、企業が取るべき王道の選択肢である。

京都大学電気関係教室技術情報雑誌「cue」2019年3月号に掲載

参考文献
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2019年8月26日掲載