IoT, AI等デジタル化の経済学

第193回「中小製造企業の導入に適したDX(2)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

3 事務部門のオフィスワーク

中小製造企業にも、他の企業と同様のオフィス業務があり、世の中のオフィス業務にAIが導入されているのと同じように、AIの導入が進んでいる。

少し前に世の中に出現した「自然言語処理」および「ディープラーニング」、さらに最近出現し、オフィス業務を大きく変えつつある「生成AI」によるAI技術の急速な発達により、中小製造企業の事務部門のオフィスワークも大きく変容しつつある。

「自然言語処理」が急速に発展し、またLLM(大規模言語モデル)技術の発展で、まるで人間と話をしているような滑らかな人間と機械とのインターフェースが出現しつつある。また、ディープラーニング技術の発達で、目を持った機械が登場し、さまざまなものを高い精度で認識できるようになっている。「生成AI」は、オフィス業務において、文書、図表や画像などを生成したり、問いかけに対して早く適切な回答をするなど、オフィス業務の大きな下支えとなっている。

AI(人工知能)は、文字通り、「人間の脳を機械で作る」ことを究極の目標としている。そのため、脳の1つずつの機能を機械で実現することで、最終目標に達しようとしている。ディープラーニングは、機械が目を持った(カメラから画像を取り込み、それが何であるかを認識する)技術とされている。最も実用的な商品として、AI自動運転車の開発が行われている。

「生成AI」は、機械が事務処理能力を持った技術とされている。現在の生成AIは、まだまだ初歩的段階で、資料を読んで要約やQ&A集を作ったり、議事録を作ったり、人間の求めに応じて答えを返すなど、従来であれば、会社の中で、若い職員が担っていた「力仕事」を早く的確に実行することができ、若い職員は、こうした「力仕事」から解放され、より知的創造的な仕事に取り組めるようになった(補完関係)。(図1)

図1)AIにより失われる仕事と創出される仕事のイメージ図
図1)AIにより失われる仕事と創出される仕事のイメージ図

この「補完関係」を共働き家庭に例えれば、家事は必ず誰かがやらないといけないので、外の仕事でへとへとに疲れて帰ってきても、家事を何とかやっていたが、そこにメイドさんが入ってきて、家事全般を全てこなしてくれるようになると、夫婦は家事から解放されて、外で元気で働くことができ、これまでやりたくてもできなかった仕事にも手が届くようになったという姿に似ている。

だが、さらにAI技術が進むと、単機能(単純作業、繰り返し作業、力仕事)だけでなく、より複雑で考える能力が必要な非繰り返し業務もAIは可能になる また人間とのやりとりも、より自然になり、まるで人間と会話しているような入出力機能になってくる。

やがてキーボードはなくなり、人間が機械と会話しながら、機械に作業を指示する時代が間もなくやってくると予想されている。そうすると、パソコンを使って行う業務のほとんどをAIが実行可能になる(生成AIの登場は、パソコンを使った業務であれば、どんな難しい業務であっても、機械が処理できるようになったことを示している)。

そういう段階になると、人間が行っていた知的創造的な業務の一部も、機械が担うこととなり(例えば、機械と会話しながら、物語・音楽・画像などを作る)、こうした仕事をしていた人間(作家、音楽家、絵画家、写真家など)は、その仕事がなくなり、別な場所に居場所を求めないといけなくなる(機械が人間を「代替」する段階に入る)。(図2)

図2)AI により代替される仕事がより増え、かつ高度化したときの創出される仕事のイメージ図
図2)AI により代替される仕事がより増え、かつ高度化したときの創出される仕事のイメージ図

知的創造的な仕事を行っていると言われていた人の仕事を細かく分断すると、その1つ1つは実は過去の繰り返しであることが多い。そのため、知的創造的な仕事を行っていると言われていた人の仕事を細かく分断し、改めて組み直すと、新しい作品が出来るとされている。

現在でも、AIが作った物語、絵画、映画、写真、AI俳優、TVアナウンサーなどが出現している AI俳優・AIモデルは、俳優・モデルの職を奪うとして特に米国において反対運動が展開されている。

AIが、パソコンを使って行う業務のほとんどができるようになると、人間がパソコンを用いた業務はほとんどが機械に代替されることになり、人間には、AIにはどうしてもできない一部の業務が残ることとなる。この残された業務ができない人間もいるので、どうすべきか、考えないといけない 例えば、中小製造企業には、高齢化した作業員も多く、どのようにリスキリング講習を受けてもAIを使いこなせなかったり、新しいAI技術を学んでも身につかなかったり、そもそもAI技術を学ぼうとする意欲がない高齢作業員もいることがある。

経理部門は、オフィス業務の中で最も情報化・機械化の影響を受ける部門とされてきた。現在、中小製造企業であっても、多くの経理部門にはRPA(Robotic Process Automation)が導入され、人間の仕事としては、機械が順調に稼働していることを監視し、何か不具合があれば対応する1人だけでよくなった。だが間もなく、これまで人間が行ってきたそうした対応をAIに学習させることで、AIが対応可能となる。経理部門が、人がいない無人の職場となる日も近い。

また、銀行、証券など金融機関では、定型的な様式に記入する「帳票業務」も、AIが担っており、金融機関から女性職員が姿を消している。銀行の審査業務も定型であり、現在はほぼAIが実行しており、審査部門もかなり人が減っている。証券のトレード業務も、かつては、敏腕トレーダーは高収入職業とされていたが、現在はトレードのほとんどをAIが実行している。人間のトレーダーはほとんど姿を消した。テレビに出てくるアナウンサーも、定型的なアナウンスは、ほぼAIが行っている。

これからのAI時代は、①先進的なAIをうまく道具として使ってビジネスをする業務、②AIが絶対にできない(どうしても人間でないとできない)業務を行う業務が残るとされている。

(次回に続く)

2026年3月2日掲載

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