第4次産業革命で広がるビジネスチャンス

岩本 晃一
上席研究員

すべてが大きく変容する第4次産業革命

ウインドウズ95が発売され、インターネット元年と呼ばれた1995年。以降、約20年聞に、パソコン、スマートフォン、タブレットなどが出現し、新しいビジネスや企業が生まれ、仕事の仕方やライフスタイルが劇的に変化するという歴史を我々は体験してきた。だがそれは、社会が大きく変容する第4次産業革命時代のほんの入口でしかない。情報・通信技術は「早く、大量に、安く、小さく」、ムーアの法則どおり比較級数的に進歩していたにも関わらず、ビジネスモデルは、従来どおりの変化のない同じパターンを毎年繰り返していた。ところが、実は、今の情報・通信技術を使っただけでも、かなりのことができることに世界中の人が気づき始めた。これが、ドイツ人がいい始めた「インダストリー4.0」(=第4次産業革命)である。今はその飛躍の最中であり、さらに今後の情報・通信技術の発展の波に載せてしまおうというのが、第4次産業革命の中身なのだ。

今後、あらゆる産業分野がIoTの技術によって「デジタル化」「コンピュータ化」「ネットワーク化」「オートメーション化」され、知能(AI)をもつことで、これまでできなかったことができるようになり、これまで存在しなかった機器・サービスが出現し、さらに多くの新しいビジネス・企業・雇用が創出され、将来、あらゆる産業分野に大きな変革が起きるだろう。すなわち、そこに巨大市場が出現すると予想されている。経済学の教科書によれば、巨大市場が生まれようとしているとき、そこに可能な限り早く市場に参入した者が、大きな利益を得ることができる。今、世界中の企業がその「先行利得」を獲得すべく、血眼になってグローバル競争に挑んでいる。

自動車産業まで負ければ、日本経済は壊滅的に

ところで、バブル崩壊以降ずっと個人消費が冷えたままだが、そのなかで唯一拡大しているのが「情報・通信費」である。最近の若者は、食事や衣服の費用を削り、新開や本を買わず、テレビを見ないで、パソコンやスマホに多額のお金を使っている。そんな近年もっとも伸びた成長分野だが、パソコンやスマホに使われるOS、CPU、画面、検索ソフトなどほとんどすべてが、米国製か韓国製だ。ここでも日本人は負けてしまった。インターネット元年以降の初20年間、激しいグローバル競争に日本企業は負け続けてきた。あれほど世界に名を馳せたサンヨー、シャープ、パナソニック、東芝などを挙げるまでもなく「電機」は縮小し、「自動車」だけで立つ経済構造となった。

だが、その自動車についても、今後10〜20年の間に、電気自動車(EV)化、人工知能(AI)の搭載、3次元プリンタの普及、所有からシェアリングへ、という大きな構造変化に直面する。日本の自動車および関連部品企業はどのくらい変化に対応し、勝ち残っていけるだろうか。もし自動車産業まで負けてしまえば、電機同様、リストラや地方工場の閉鎖が相次ぎ、日本経済は壊滅的、ダメージを被るだろう。

今後の20年は、過去20年の数倍の大規模な変革がすべての産業分野に及ぶ。だが、日本企業の経営者の多くは、世界の激しく早い動きに無関心である。第4次産業革命は、すべての国のすべての企業にとって大きく飛躍できる絶好の機会であるが、その反面、競争に負ければ一気に沈没する可能性もある。だからこそ、改革(Reform)ではなく革命(Revolution)と呼ぶのである。

中小・小規模企業はまずは小さなIoTから始めてみよう

このような変革時代にあって、新聞には毎日のようにIoTに関する記事が躍る。日本はIoTブームといえるが、残念ながら、そのほとんどが大企業の話である。日本の中小・小規模企業の現場にIoTを全面的に導入し、かつ実績が出た、という事例はまだまだ少ない。導入が進まない理由は、「よくわからない」の一言に尽きる。その壁を乗り越えるため、私が所属する経済産業研究所では「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」を開催してきた。参加企業は、試行錯誤しながらノウハウを積み上げ、着実に成果を出している。事例として、IoTを導入して売上高3割増加させた株式会社ダイイチ・ファブ・テック(茨城県水戸市)を紹介したい。

同社は、従業員27人、年商3億円の金属加工を行う部品メーカーである。代表取締役の金森良充氏は「昨今の技術革新には目を見張るものがあり、顧客の要望に応えていくためにも、新技術を他社に先駆けて導入してみたい」という前向きな思いと、「様変わりする業界のなかで、どうしたら生き残っていけるだろうか」という強い危機感をもっていた。

そこで、長年の課題であった設備稼働率の平準化をIoTで実現できないかと、経済産業研究所の研究会に参加した。そこで、生産ラインのデータ収集が必要だと痛感した金森氏は、「どのようにして、どのようなデータを取得すればよいのか」を茨城県工業技術センター主催の「工業設備の見える化を睨んだIoT化技術の修得コース」で学び、加工機(レーザ・プレス・ベンダー・溶接ロボットなど)に非接触の電流計を取りつけることで、電気使用量の把握を可能にした。

loTは単なる道具その先の競争力向上こそ真価

こうして、生産過程における設備稼働率の「見える化」を実現し、従業員とともにデータを生かした工程管理を進めていくと、次第に稼働率が平準化。より多く受注できるようになり、売り上げを約9000万円増加させることに成功した。

金森氏は「どこを自動化し、どこを人が担うと工場の生産効率を上げることができるか、非常に整理ができた。私たち中小企業にとって、最新技術の導入は資金面の制約が大きいが、乗り遅れることなく、自社に合ったかたちで生産現場に活用していきたい」と話していた。

同社は、80万円相当のセンサーを茨城県工業技術センターから無償で借り受けて成果を出した。中小・小規模企業はこうした支援機関をうまく活用して、初めの一歩を踏み出してほしい。中小企業はIoTを難しく考えがちだが、そうではない。中小企業は日々、「カイゼン(新しい事業戦略を含む)」を行っている。それが競争力の根源だからだ。今、そのカイゼンのなかにIT技術を用いることが増え、それを「IoT」と呼んでいるに過ぎない。IoTは単なる道具でしかない。そのような意識でIoTを導入した先行企業が、飛躍的な競争力の向上を実感し始めている。

『月刊「商工会」』2018年8月号に掲載

2018年9月4日掲載

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