中小企業のIoT 将来の新しいビジネスモデルは何か

岩本 晃一
上席研究員

1. IoTにより新しい商売が可能

ドイツがインダストリー4.0構想を発表した2013年、多くの中小企業経営者では、「IoTは、大企業が資金と技術を投じて行うものだ」という雰囲気が支配的だった。

だが、筆者には、「いずれ中小企業にもIoT導入の機運が高まる」という確信があり、実際にこの2年間で、中小企業経営者のIoTに対する関心は大いに高まった。

そうすると、次の中小企業経営者の関心事は、IoTを用いた中小企業の新しいビジネスモデルに移ってくると筆者は予想する。

IoTを用いて商売の仕方を若干効率化したり多少の売上を上げることがIoTの神髄ではないし、世の中のほんの一部の貪欲な中小企業経営者が、そこだけで終わるとは思えない。IoTを用いれば、従来、出来なかった新しい商売が新たに可能になる。「お、これは、ものすごい儲かる話じゃないか!」と、一部の大企業のみならず中小企業の経営者のなかでも、目ざとい人々がやがて気づくはずである。

背景にある「テクノロジーの進歩」の底流は極めてシンプル。それは「早く、大量に、安く、小さく」である。筆者が学生だった頃、大学にスーパーコンピュータがあったが、それよりも今のスマホの方が遙かに性能が上である。一体、当時の誰が、将来、スパコンが手のひらサイズになると予想しただろうか。その流れは、ムーアの法則によれば更に加速度がつき、今のスパコン「京」がやがて手のひらサイズになる。その破壊力のすさまじさは想像できるだろうか。

また通信技術についても、3G、4G、5Gなどと高度化し、「早く、大量に、安く、小さく」が実現される。その結果、これまで出来なかったことが新しく出来るようになった(図1)。過去20年間の変化よりも今後20年間の変化のほうが遙かにもっと大きい。すなわち、そこに巨大市場が生まれるのである。

図1:今後20年間の情報通信技術の変化
図1:今後20年間の情報通信技術の変化

2.ドイツの新ビジネスモデル

(1)アディダスのマスカスタマイゼーション
アディダスがドイツ・バイエルン州に新たに建設したアインスバッハ工場は、「インダストリー4.0工場」と呼ばれている。その特徴は、「スピードファクトリー」と「マスカスタマイゼーション」の2つである。現在、アディダスの生産量は、年間約3億足だが、これを2020年まで毎年3000万足増(毎年10%成長)を達成しようという目標を掲げている。

従来、同社では靴の製造からリリースまでに約18カ月要していた(設計、中国やバングラデシュでの手作業による製造、ヨーロッパまで船便を使った完成品の運搬)。だが、流行の変化が激しい現代では、18カ月先のトレンドを捉えるのは不可能となってきた。そこで同社は24年ぶりにドイツ国内での製造を再開した。コンピュータに入力したデータをもとにロボットが製造を行う全自動工場「スピードファクトリー」(4600平方メートル)では、製品をデザインしてから店舗に並べるまでを数週間に短縮。人間の関与は、デジタルデータの投入やロボットの管理に限定することで、人件費の高いドイツでの製造が可能となった。

また、低コストの大量生産を行いながらも、個々の消費者に合わせて柔軟な「オーダーメイド」商品を製造する「マスカスタマイゼーション」も可能にした。デザインから完成まで数日で可能。ロボットを使った標準化でコストを抑えながら、設計情報のデジタル化によって特注品を製造する。

コア技術は「ARAMIS(アラミス)」と呼ばれ、その3次元モデルを用いることで、ユーザーごとのカスタマイズ化や極めて細かい単位での設計が可能となった。靴の素材や足の形に関する詳細な情報をもとに、靴にかかる圧力や変形の度合いなどを計算し、ユーザーごとの適切な靴の3次元モデルのデザインを決定、このデータをもとに、ロボットが製造するというものである。その結果、カスタム品は標準品と同じ価格1万2000円でユーザーに提供することが可能になった。

(2)「ものづくりサービス業」に転換
ドイツのケーザーコンプレッサー社は、製造業が「ものづくりサービス業」に転換するという事例である。同社は従来、圧縮空気設備の製造販売を行っていたメーカーだったが、設備を売らず空気を売るというビジネスモデルに転換した。都市ガス会社などと同様、設備の所有、設置、運用、保守、修理は全てメーカー側が実施、全てのコスト込みで1立方メートル当たり●円で販売するというビジネスモデルである。

顧客が得られるメリットとは、第1に省電力(平均-14%)である。なぜなら、機械を最もよく知るメーカー自身がネット経由で1台ずつ個別に機械を最適制御するからである。ここにもカスタマイゼーションが実現している。第2に、省メンテ費(平均-50%)である。機械の所有権はメーカー側にあるため、メンテについて事前に顧客と打ち合わせる必要が無い。また設備が止まったからと言って急に夜中に呼び出されることがない。メンテ要員を計画的に派遣することで人件費を約半減できる。さらに、顧客側の作業員がやっかいなメンテ作業から解放されて本来業務に専念できる。同社によれば、この圧縮空気販売事業の売り上げの伸び率は毎年10〜20%増。過去10年間の会社全体の売上伸び率(平均9%増)より高い。圧縮空気コストの8割は電気代であり、その省エネはどの企業にとっても最大の課題であるが、同社は、独自の手法を開発し、売上げを伸ばしていった。

同社はKAESER家のオーナー企業(今の社長は3代目)であり、ドイツの「隠れたチャンピオン(Hidden Champion)。自動車修理工場からスタートし、今や、圧縮空気事業分野でアトラスコプコ社(スウェーデン)、インガソール・ランド社(米国)に次ぐ世界第3位となっている。

3.カスタマイズが勝敗を分ける

16年11月、ドイツのインダストリー4.0分野の中心的存在であるミュンヘン大学のアーノルド・ピコー教授を訪問した際、同教授は2年間かけて行ったドイツ連邦政府委託の調査レポート「デジタルトランスフォーメーション」(17年2月発表、ドイツ、EU、米国、日本、中国、韓国の199人を対象に約2年間かけてインタビュー)の概要を説明してくれた。

報告書は、世界の新しいデジタルビジネスが一体どの方向に向かっているかを調べたものであった。

「企業はデジタル技術を、企業と顧客をつなぐ接続部、すなわち従来と比ベ、更に新たな接続の機会を増やすという形で使おうとしている。言い換えると、顧客が一体何をもっと欲しているか、という情報を取り、更に一層顧客の要望にカスタマイズして提供することにデジタル技術を使おうとしている。ということは、今後は、企業がいかに顧客にカスタマイズしたものを提供できるか、というところで企業の勝敗が決まっていく、ということに要約される」。この言葉が、同教授の私への最後の伝授であった。同教授は今ではこの世にいない。

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第4次産業革命とは、旧態依然として毎年同じ事が繰り返されていたビジネスに、「今の情報・通信技術」を導入して、これまで見られなかった新しいビジネスモデルにジャンピングするものである。今はその最中であり、さらに今後、情報・通信技術の発展の波にのってしまおう、という大きな儲けを企む人々の動きこそが、第4次産業革命を動かす原動力といえるだろう(図2)。

図2:第4次産業革命と情報・通信技術の発展
図2:第4次産業革命と情報・通信技術の発展

2018年3月25日 日本物流新聞に掲載

2018年4月6日掲載