IoT(モノのインターネット)がもたらす第4次産業革命について考えてきたこの連載ですが、最終回はドイツと米国、日本がそれぞれが置かれた立場や取り組みを取り上げます。
いま各国は、国内事情や自国民の感性に沿った形で、IoTのビジネスモデル開発を進めています。ドイツは通信環境が悪く、かつ製造業の国なので、国民の関心は工場の中に向いています。最近まで工場内のIoTに特化し、「単品生産」「カスタマイズ生産」が主流でした。「機械」を得意とするドイツ人的な発想です。
米国は通信環境が良好なためビッグデータを収集し、データ処理することにより巨大な富を手にしようとする試みです。米国人の念頭にあるのはグーグル、アマゾン、ヤフー、フェイスブックなどの成功モデルと思われます。日本は米国同様に通信環境は良好なので、M2M(機械間通信)が展開されていますが、主流は工場内の「見える化」によるコストと人員の削減です。
世界に先行して国をあげてIoTに取り組んだドイツでは、当初、全自動化されて人間がいない生産現場といったリポートも発表されましたが、その後、労働界からの強い懸念も反映して「単品生産」「カスタマイズ生産」と呼ばれるビジネスモデルに関心が集まりました。つまり、消費者1人1人の要望に応え、世界に1つしかない製品を短時間低価格で生産するものです。液体せっけんや香水のような瓶詰めするだけの製品であればさほど難しくないかもしれませんが、自動車であれば1台ずつロボットに載せて工場内を移動しながら組み立てることを想定するため、技術的な困難度が高く、IoTが生かせると考えられたのです。
ところがデータ処理技術で優位性を持つ米国が「オープン・プラットフォーム型」ビジネスモデルを追求するようになり、ドイツは最近になって、米国に対抗するビジネスモデルの開発に急ぐようになりました。オープン・プラットフォーム型という新しいビジネスモデルは、多くの企業からデータを集め、そこから得られた知見をもとに分析などのサービスを提供するものです。例えば、米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、10億ドル以上を投じてカリフォルニア州にソフトウェア・センターを設立し、1000人を超えるソフトウェア・エンジニアを一気に採用してプラットフォーム「プレディックス」を開発、普及に力を入れています。
このようなビジネスモデルではビッグデータとアルゴリズムが利益の源となり、可能な限り多くのデータを集めた方がより多くの利益を手にします。オープン・プラットフォーム企業で働く人々が大きな収入を手にし、データを提供してサービスを利用する立場のコントラクター企業にはほとんど対抗力はありません。ドイツ企業が恐れているのはこの力関係の結果、ドイツで長期的雇用が失われ、コスト最小化という会社の都合で人事配置され、雇用が不安定化することです。
米IBMが2年おきに実施している世界の大企業のCxOs(最高XX責任者)を対象にした調査(70力国以上、21産業分野、5247人から回答、個別面談も実施)でも、回答者の4分の3が、今後のビジネスモデルは「オープン・プラットフォーム型」であると回答しています。ドイツで広がっている懸念はドイツ人労働者が少数の米国人の莫大な利益のために、惨めな雇用環境に陥ってしまうことです。