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※本プロジェクトは、終了しております。

競争ルール戦略

情報家電のネットワーク化が進み、通信を生かした用途が広がってくれば、放送、通信、遠隔医療、遠隔教育などサービス事業者のサービスを実現するための一定のハードやソフトの仕様の共通化が必要になる。その際、情報家電全体のアーキテクチャデザインの育成に失敗すれば、サービス事業者はPCにこぞって流れ、情報家電としての競争力を失う可能性もある。 本当に大切なことは、メーカー同志の技術競争ではなく、ネットワーク化後の情報家電に「何が出来るのか?」、「それはどういうシステムとサービスをどう組み合わせているからなのか?」を、消費者や各種サービス事業者にしっかりと提案しサービス参入を促進することではないのか。これらを実現するための方策を提示する。

2004年10月31日 参照モデル って、何?

「情報家電を使ったサービスから、情報家電の部品、その製造装置まで、複雑に積み重なった
情報家電市場を、どうやって読み解くか?」

そういう話を2回続けてきました。前々回が、ビジネスから技術まで、縦の関係を明確にしようという話。前回が、現状から将来までの横の関係を明確にしようという話です。そこで、今回は、こうした縦・横の関係をそれぞれの企業の方が書いてみて、読み解いていくときに、共通に使える辞書:「参照モデル」について書いてみたいと思います。

IT業界で一番名の通った参照モデルって、おそらく「OSI参照モデル」かなと思います。Reference Modelという名前の趣旨ということで言えば、今回このレポートで主張している参照モデルも同じです。OSIの場合、物理層からアプリケーション層までの縦の関係を示し、どの技術がどこにマッピングされるか、その機能を定義したフレームワークを提供しています。これは、ある種の技術参照モデルだと思います。別に、参照モデルが技術を7階層に定義したからといって、7階層の技術がバラバラに提供されなきゃならないわけではありません。7階層分を全てまとめたソフトウエア・サービスを提供する場合もあれば、トランスポート層とセッション層に限定してソフトウエア・サービスを提供する場合もあると思います。参照モデル一般もそれと同じで、その技術の位置づけを示す地図を提供しただけで、個々の企業の戦略や技術の内容を縛るわけではありません。

例えば、医療・教育などのコンシューマーサービスから、そこにソフトウエアを提供するコンシューマーソリューションサービス、その土台となる機器を提供する情報家電機器ビジネス、そこに部品を提供する情報家電部品ビジネス、などといったように、ビジネスを階層化したフレームワークを出したとしましょう。そのフレームワークに基づいて参照モデルを出したところで、参照モデルが個々の企業のビジネス上の垂直統合を妨げるわけではありません。単に、その位置づけをクリアにするだけの話です。
同じように、コンシューマサービスの中でも、ビジネス・機能、それを実現するためのデータ処理、それを実現するサービスコンポーネント構成、それを支える技術、といったように、コンシューマーサービスを実現するために必要な要素を階層化して、可視化することは、個々には難しいことではありません。どのビジネス・機能に対応させるために、どういうアプリやITインフラを用意するかを明確にしやすくするだけの話です。
こうした縦軸関係を明らかにするようなフレームワークを提示することで、様々な戦略や技術を持った事業者が、互いに互いの位置づけを正確に理解することが出来るようになります。

参照モデルの持つ機能は、これだけではありません。ビジネスソリューションの世界で活用が始まっている参照モデルですが、この参照モデルが、直接、システムの調達仕様書の辞書として活用されている場合があります。
参照モデルがそうした形で使われるためには、単に、各階層のビジネスの種類や技術の内容を階層化するだけでなく、そこに含まれるビジネスや技術にどのようなものがあるのか、具体的に書き落としていくことが必要です。IPAの事業として、政府でも民間でもシステム調達に使える参照モデルの試作を昨年やってみました。その中で技術参照モデルの概念図(リンクしているファイルの5/50ページ目。表1-1)をしてますので、イメージを見てみてください(参照モデル全般についての、報告書は、こちらにあります。)
このモデルは、まだ概括的なものです。米国のスミソニアン博物館が調達に使っているモデルになると、更に詳細な製品名にまでブレークダウンしたものが使われているようです。

参照モデルは、このように、システム調達をしようとする者が共通に使える辞書のようなものです。システム調達をする人は、この参照モデルにある用語を基に、自社のシステムの将来戦略を描いていきます。みんなが参照モデルを参照してくれれば、特定の会社内でしか分からない用語は使われていないわけですから、いつどの時点の、どういう協力を必要にしたとしても、その時ベストと考えられる他の事業者を探すことが出来るようになります。特定ベンダのみに依存する必要は、もうありません。その時、一番良いと思われるビジネスや技術を提供している人と組めばよいわけです。

で、情報家電でも、同じことがしてみたいなと。情報家電も、家電メーカはもとより、ソフト会社、中小製造業、サービス企業、マーケティング企業、いろんな人達が協同していく市場になるとすれば、各社が社内戦略を情報家電EA(エンタープライズアーキテクチャ)を描くときの共通の辞書として、参照モデルが整備できないかなということなんです。例えば、医療や教育の事業者が、既に普及している情報家電機器を端末に使って新しいサービスを始めたいと思ったときに、誰にどういう風に声をかければ実現するのか、そのサービス調達仕様書のようなものを作る際の良い辞書になるというイメージです。

さらに、こうした参照モデルは、将来に向けて必要な要件のValidationをかけていくことで、徐々に、関連する事業者同士が、業務やシステムの統合を果たしいく手助けもすることになります。英国政府が電子政府調達のために作ったe-Gifというスキームがありますが、これも一種の参照モデルといえると思います。ただし、このe-Gifの場合は、参照モデルに載せる時点で、商品選択も含めて自由度が厳しく制限されており、このDTDに準じてこのXMLスキーマに準拠したものでないと認めない、といったように、事実上の標準化に近いところまで、参照モデルが踏み込んでしまっています。
 情報家電の世界が、そこまで統合的な世界になるには、あと10年くらいかかると思いますが、その時には、必要なValidationを行うプレーヤを含んだ参照モデルの共有がきっと行われているんじゃないかとと思うんですね。

また、小難しく書いてしまって、すいません。。。

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2004年10月31日掲載