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競争ルール戦略

情報家電のネットワーク化が進み、通信を生かした用途が広がってくれば、放送、通信、遠隔医療、遠隔教育などサービス事業者のサービスを実現するための一定のハードやソフトの仕様の共通化が必要になる。その際、情報家電全体のアーキテクチャデザインの育成に失敗すれば、サービス事業者はPCにこぞって流れ、情報家電としての競争力を失う可能性もある。 本当に大切なことは、メーカー同志の技術競争ではなく、ネットワーク化後の情報家電に「何が出来るのか?」、「それはどういうシステムとサービスをどう組み合わせているからなのか?」を、消費者や各種サービス事業者にしっかりと提案しサービス参入を促進することではないのか。これらを実現するための方策を提示する。

2004年10月17日 技術とコンテンツの間の中抜き現象

先週のエントリでは、「IT産業の態度が大き過ぎやしないか。重要なことは、ITの側は黒子に徹すること。様々な家庭向けサービスにITを使いたい事業者の要望に徹底して応えることが、IT産業に必要なことじゃないか。そのために、EAという手法を用いて自らの事業・市場の可視化を進めることが重要だ。」と、ご紹介をさせていただきました。

では何故、EAなのか。そう考えた理由を、今回から少しづつご紹介したいと思います。

DRMやコーデックの話が典型的だと思いますが、もう、市場に対する技術の提案は山のようにある。正直、ユーザにとっては、どれでも良い(苦笑)。でも、どうしてこんなに似たようなDRMが乱立したり、特定企業のDRMが妙に恐れられたりってことになるんでしょうか?
結局、どれもこれも、それが実際にユーザにどういう形で使われ、そのためにどういうサービス提供者がどういう形態で使うことを想定しているのか、その事業者は他にどんなサービスと一緒にそれを提供しようとしているのか、全く想像もつかないまま、「まあ、こんなもんだろう」的な勢いで、いきなり技術が特定レコード会社の音楽やら特定の番組やら特定コンテンツを個別に囲い込みに行ってると思うんですね。で、売れない、使われないって、悩んでいる。

でも、これはおかしい。

単に、コンテンツと技術の間で起きている出来事をきちんとマーケティングして作り込まないでいるから、結局使われないだけなんじゃないでしょうか。みんなそれを、「いやあ標準化が・・」なんて標準化のせいにしている。もちろん、標準化そのものは必要です。でも、標準化しなくたって、独自方式でi-PodでもNetMDでも売れるものは売れいると思うんです。


「標準化が出来ないから売れないんだ」っていうのが、メーカ側の一つの言い訳になっているような気がする。理由はもっと簡単で、「技術開発要素がまだ残っている」からでも、「標準化が不十分だから」でもなく、「どこでどう使われるかが良くわからないまま売っているから」ではないでしょうか?

トラックバックを頂戴した、Neonsさんが、次のように書かれていますが、全くそのとおりだなあ、と思います。少し、そのまま引用しますと、

これまで放送コンテンツと数種類のプライベートコンテンツを扱う商品しか担当したことのない
メーカーの担当者が、異なる伝送路から降ってくる多様なコンテンツに対応しようとしても、
資料の9Pにあるようにコンテンツと技術の間を全く考えずに、一気に突っ走ってしまう。
その結果、一体誰が使ってくれるのだろうかと首を傾げてしまうようなユーザー不在の機能が
搭載されてしまい、失敗に終わるというケースが周りでよく散見される。
コンテンツと技術の間を埋める、「消費者行動」、「機能・データ」、「サービス」のレイヤーを
意識した新機能の策定プロセスは、まさに今求められている要素だと思う。しかし、
こういった観点で新商品を考えられる部署がメーカー内では見当たらない。
戦略部は既存商品の数年後の市場を予想して、リソース配分を決めているだけだし、
企画はそれに従って具体的な商品ラインナップと仕様を考案しているだけである。

こうした状況にあるからこそ、メーカーの側でも中途半端に自分でやろうとせずに、積極的に、音楽配信にしても、動画配信にしても、遠隔医療でもe-Learnigでも、その道のプロをこの世界に早く引き込まないといけないのではないでしょうか。そして、「機能・データ」、「サービス」のレイヤをもっと明確にさせた上で、技術的な戦略をくみ上げるべきではないでしょうか。

そのためには、コンテンツと技術をいきなり結びつけるんじゃなくて、
 - そのコンテンツを使う消費者は誰で、
              どういう場面でそのコンテンツを使うつもりで:ビジョン・ミッション
 - コンテンツを提供するサービス事業者は、
              どういうビジネスモデルで提供するつもりで:ビジネスアーキテクチャ(BA)
 - そのためにはどういうデータ処理を
              どういう段階を経て行うことが必要で:データアーキテクチャ(DA)
 - 複数のデータ処理ニーズを考えると、どういうアプリにまとめて提供することが
              ビジネス・技術の両面から見て最適で:アプリケーション・アーキテクチャ(AA)
 - その結果、どこにどういうネットワーク回線と、
              ハードと、ソフトが必要になるのか:テクノロジー・アーキテクチャ(TA)
という段階を経た議論が必要だと思います。

僕がEAのフレームワークに引かれた理由の一つは、このビジネスからテクノロジーまでの縦軸的関係が、今の情報家電の中抜き議論現象を補うのに、非常にぴったりとしていると思ったからです。

確かに、BAからTAに4分割するもの以外にも、EAには色々なフレームワークがあります。ただし、そのいずれにも共通しているのは、ターゲットにした市場・組織のニーズ・動きを、ITユーザのニーズからITベンダの提供したい技術までの縦軸的関係と、AsIs(現状)からToBe(理想)までの横軸的な時間展開に、それぞれバラバラに分解して可視化する点です。情報家電の市場を見るにも、そういう縦・横のフレームワークをきちんと作って、みんなが共通的な言語で市場を理解できるような仕組みを入れる必要がある。そのための仕組みとして、EAと、EAが更に活用を提唱する「参照モデル」が非常に良いと思ったんですね。

今日は、そういう縦軸的関係についての思いを書かせていただきましたが、次回以降、今度は横軸的な時間展開の話、そして、EAが提唱する「参照モデル」ということについて、順にご紹介していきたいと思います。

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2004年10月17日掲載