IT@RIETI

e-Life Blog

※本プロジェクトは、終了しております。

情報家電の現状と展望

ここでは、報告書II「基本的な戦略」について、執筆者の村上敬亮情報政策課長補佐、森川毅情報経済課係長が解説します。ここでは、基本的に報告書第II部で論じている、戦略Iとしての、新しいイノベーションを核とした収益モデル構築への戦略、そして戦略IIとして、従来から強みを発揮してきた部分をどう伸ばしていくかについて、議論を進めていきます。

2004年10月31日 P2P技術の展望とほんとうのこわさ

先日、デジタルコンテンツ協会が主催する「P2P技術の勉強会」に出席して、話題となっているデータ交換(ファイル交換)技術の動向について掴むことが出来ました。アメリカでは裁判で合法判決を巡って議論が巻き起こり、この判決に勢いづいた、米国のストリームワークス社はコンテンツの配信にDRM技術を埋め込み、ファイル交換ユーザーに合法的にコンテンツ配信をおこなうソリューション製品を販売することになったようです。この製品はDRMソリューションや電子決済プラットフォームが含まれているため、世界中に広がるファイル交換ユーザーにたいして「有料でのコンテンツ配信」を実現するという「ファイル交換を逆手にとったビジネスモデル」が生まれようとしています。

さらに、メッセンジャー機能にIP電話機能をバンドルし、既存の固定網キャリアとも相互接続を果たしているSkypeというP2P技術を用いたソフトも登場しインターネットというオープンなデジタル通信インフラならではのビジネスが生まれつつあります。

これらを概観してみると、「IPアドレスと物理的なネットワークとオープンアーキテクチャー機器(PCを指しています)を結びつけているのはWebだけではない。」というインターネットの原点の視点に立ち返ることになると思います。
そのうえ、通信ノードや情報データベースや記録メモリという機能実現のためのリソースがユーザーのストックの拠出(ユーザーのPCリソースのことです)によって成り立っていることを考えれば、「そもそもISP事業者や通信キャリアが果している役割とはなんであったのだろうか?」という視点が生まれてきます。
ISP事業者や通信キャリアはインターネットの技術のなかでもWWWのみを情報プラットホームとして焦点を合わせすぎて、ビジネスモデルを組みすぎたのかもしれません。

さて、そこでP2Pの技術を再度視点を変えて考えてみます。
「P2Pとはノード機能(通信中継機能)をユーザーが持っているPC処理によって行うため(ISPや通信キャリアはしません)、仮想的なネットワークを組むために必要な処理能力(CPUやメモリの性能)」を提供しています。また、「データ交換(ファイル交換)のために必要なデータベース生成にも同じようにPCリソース」を提供しています。

ユーザーはどうして自らのPCリソースを提供するのでしょうか?それはやはり無料でソフトを入手できるというファイル交換ネットワークを作るためだと思います。これは市販ソフトの交換に使われれば不正な利用法であるともいえます。しかし、SkypeのようなIP電話網の実現ならいかがでしょうか?それとも、とてもおもしろいネットワークゲームのゲーム空間の生成のためならどうでしょうか?

これはユーザーの気持ちを掴んだインターネットの利活用シーンを考えて、ユーザーが自分のPCのリソースを積極的に拠出したくなるP2P利用の文脈を作ったアプリケーション開発者の勝利であると思います。これからはインターネットを生かしたサービス開発にはWWWを踏み台にして、P2Pを利活用の方法を啓蒙し、ヴァーチャル(仮想的というよりも実質的)なネットワークを作る人がインターネットを支えていくように思います。

そこで私がこわいと思ったことは、これらのネットワークの中で実質的な電子商取引が行われることです。「P2Pネットワークの仮想空間で音楽が販売され、クレジットカード決済され、データであれ、CDであれ、音楽が手に入る」これはSFのようですが、もうすぐそこまできている現実であると思います。

さらにこのようなビジネスモデルは「よりおもしろい、とてもCoolななにかの形(ゲームかもしれない)」でユーザーを引きつけ、ユーザーが喜んでPCのリソースを提供するような演出がキーとなります。それらが通信インフラ、電子決済プラットホームになったとき、そのビジネスを牽引しているのは日本企業でしょうか?

インターネットには国境がありません。グローバルな視点でこのようなビジネス戦略を練り、世界中のユーザーを演出する企業こそ、今求められている企業ではないでしょうか?そして、このようなP2P技術を利用した日本企業が生まれない限り、「日本の消費者のお金が海外に流出していく」という事態が始まるこわさがあると思います。 そして、それらの機能実現のためのPC性能の拠出を日本の消費者自らが行うと考えるとこわさが倍増する次第です。

そして消費者志向、顧客志向という言葉の原点に立ち返り、考え込んでいる次第です。

Recent Entries

This work is licensed under a Creative Commons License.

2004年10月31日掲載