| 執筆者 | 内記 香子(東京都立大学) |
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| 発行日/NO. | 2026年7月 26-J-030 |
| 研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VII期) |
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概要
本稿は、欧州連合(EU)が導入しようとしているバッテリー・パスポート(より広くはデジタル製品パスポート)をめぐる課題を検討する。バッテリー・パスポートとは、製品のサプライチェーンおよびライフサイクル・データを追跡・共有するシステムであり、これを導入するEUには2つの目的がある。まず、バッテリーのリサイクル体制を確立して循環型経済(サーキュラーエコノミー)を追求すること、そして、EUのバッテリー産業の競争力を支援することである。EUのこの政策を、EUが得意とするサプライチェーン上の人権侵害・環境汚染などのサステナビリティ戦略とみなしてはいけない。経済安全保障の観点から、産業の競争力維持のために不可欠な鉱物資源のリサイクルや再生材活用のためのEU戦略だとみるべきである。サーキュラーエコノミーとは、資源安全保障の問題なのである。
以上を背景に本稿では、バッテリー・パスポートの導入を国際通商法上の問題として捉え、2つの側面から検討を行う。まず、EUのバッテリー・パスポートの世界貿易機関(WTO)協定整合性を検討し、EUバッテリー規則が差別的な措置となり得る可能性について指摘する。次に本稿では、バッテリー・パスポートをWTO法上の物品規制としてだけでなく、デデータガバナンスの問題(サプライチェーン・データへのアクセスをめぐるデータの機密性や信頼性に関する問題)としても捉える。とくに、日本とドイツの自動車・バッテリー産業によるデータ連携の取り組み、また、インターオペラビリティ(相互運用性)確保のための国際標準化の取り組みについても検討する。この背景には特定の技術やシステムを使うことを求めるEUの狙いがあり、国際協調や標準化の行き着く先にも注視する必要がある。結論部分では、こうした問題を越えて、日本企業がデータ連携・共有を社会的価値として認識し、動脈の中小企業や静脈のアクターを含めて、資源循環とデータ循環のエコシステムを形成できるようになることの必要性について指摘する。