近すぎて通えない:学習支援事業の教育効果と社会的スティグマによる参加回避

執筆者 浅川 慎介(佐賀大学)/阿部 眞子(日本経済研究センター)/大竹 文雄(ファカルティフェロー)/佐野 晋平(神戸大学)/名方 佳寿子(摂南大学)
発行日/NO. 2026年4月  26-J-021
研究プロジェクト 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究
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概要

本研究は、低所得世帯の子どもを対象とした学習支援事業における逆説的な現象を明らかにする。つまり、学習支援プログラム自体は子どもの能力向上に有効である一方、支援拠点が居住地に近接していることがかえって参加を阻害するという問題である。本研究では、兵庫県尼崎市の行政パネルデータを用い、参加行動をProbit分析に基づいて、学習支援がスキル形成に与える影響とそのメカニズムをTreatment effect modelを用いて分析した。

分析の結果、以下の2点が明らかになった。第一に、学習支援の教室が自分の学校区内に位置している場合、参加確率は有意に低下する。これは教室が遠いからではなく、子どもが自身の生活保護受給状況等を同級生に知られることを恐れる「福祉スティグマ(welfare stigma)」を抱いたからであると考えられる。第二に、参加者全体への平均的な効果は確認されなかったものの、高い出席率で継続的に参加した児童生徒は週あたりの学習時間が4〜5時間長く、算数・数学および国語の点数や外向性が高い傾向が確認された。

以上の結果は、子どもであっても福祉スティグマを抱き、支援施設の利便性向上が意図せぬ『社会的可視性』を高めることで、プログラムの利用(take-up)を抑制するという、政策上の重要なトレードオフの存在を示唆している。