マークアップとビジネス・ダイナミズム―日本の政府統計に基づく企業レベルの実証分析

執筆者 金 榮愨(専修大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2026年1月  26-J-002
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

本研究は、日本企業におけるマークアップの水準と動態を、イノベーション、企業特性、ビジネス・ダイナミズムとの関係から実証的に分析する。「経済産業省企業活動基本調査」と総務省と経済産業省の「経済センサス―活動調査」を企業レベルで統合し、コストベース、付加価値ベース、労働ベースおよび中間投入ベースといった複数のマークアップ指標を一貫した方法で構築する。

主な結果は以下の三点である。第一に、日本の平均的なマークアップは1990年代後半以降、長期的に横ばいもしくは緩やかな低下傾向にあり、米国で報告されている上昇傾向とは対照的である。第二に、マークアップの変化は主として企業内部の変化(内部効果)によって説明され、企業間再配分や参入・退出の寄与は限定的である。第三に、労働ベースと中間投入ベースのマークアップはしばしば逆の動きを示し、日本企業では賃金や研究開発費といった労働関連コストが価格に転嫁されにくい一方、非労働コストは比較的価格に反映されやすいことが示唆される。

これらの結果は、日本におけるマークアップ停滞が競争の緩和ではなく、動態的再配分の弱さと価格転嫁構造に起因している可能性を示している。