執筆者 | 大岩 浩之(経済産業省) |
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発行日/NO. | 2025年7月 25-J-016 |
研究プロジェクト | 企業ダイナミクスと産業・マクロ経済 |
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概要
本稿は、1990年代以降に拡大した日米の生産性格差の要因として、日本のデジタル投資の相対的な不足に着目し、その経済的影響を定量的に検証する。1994年から2020年までの100業種にわたるパネルデータを用いて生産関数を推定した結果、ソフトウェア資産の付加価値に対する限界効果は有形資産を大きく上回ることが確認された。また、補完関係にあるソフトウェア資産と無形資産が、それぞれ米国水準まで増加した場合、日米間の生産性格差(38%ポイント)の約2分の1を解消できると推定された。これらの分析結果は、政策支援の重心を設備投資からデジタル投資や無形資産投資にシフトする必要性を示唆する。
次に、Post-Double-Selection Lasso法による制御変数の選択バイアスを排除した頑健な推定を行った上で、デジタル投資の決定要因の投資関数を推計した。分析の結果、労働者の質、ソフトウェア価格、一般労働者の賃金の各要因が、デジタル投資の拡大に対して統計的に有意な正の効果を持つことが確認された。また、ソフトウェア資産を米国水準まで増やすためにデジタル投資額を約4倍に拡大するには、各要因の水準を76%ずつ改善する必要があると推定された。これにより、ソフトウェア開発を手の内化している質の高い労働者の育成・確保の支援や、抜本的にソフトウェア価格を下げるためのスケールアップ(規模拡大)支援、そして、労働者全体の賃上げが、デジタル投資を通じた日本の生産性向上に対して有効な政策手段であることが示された。