執筆者 | 宇治田 達哉(早稲田大学 / 野村アセットマネジメント株式会社)/宮島 英昭(ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2025年5月 25-J-011 |
研究プロジェクト | 企業統治分析のフロンティア |
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概要
本稿では、近年日本においても急速な市場拡大がみられるESG債の拡大要因について、対立する2つの仮説、シグナリング仮説とグリーンウォッシュ仮説の妥当性を検証した。2018-2023年に日本企業が発行したESG債をそのタイプごとに検証し、特に発行額の55%を占めるグリーンボンドに関して、(1)同債券の発行が主として企業の環境改善に対するコミットメントに基づくこと、(2)株式市場は概ねこれを好意的に評価していること、(3)この源泉は、主に債券市場における評価(グリーニアム)を背景とした資本コストの低下ならびにESG選好度の高い機関投資家の保有増加によりもたらされたと解釈しうること、(4)発行後、ESGスコアならびにCO₂排出量について事後的な環境パフォーマンス改善が確認されることを示した。こうした一連の結果は、シグナリング仮説と整合的である。一方で、サステナビリティ・リンク・ボンドでは、これらシグナリング仮説を支持する明確な結果が得られず、現時点においてはグリーンウォッシュの可能性を否定出来ないことが示唆された。