執筆者 | 渡邉 真理子(学習院大学) |
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発行日/NO. | 2025年2月 25-J-003 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
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概要
本稿では、中国の過剰生産現象がもたらす摩擦の経済的な構造を理解するために、産業政策をめぐる研究のレビューを行う。各国の実施する産業政策が規模の経済を強化する場合、「産業育成の論理」が働いて経済成長が期待できるものの、貿易を通じて貿易相手国の産業基盤を破壊する、自国の交易条件を悪化させるなどの「国際的な市場の失敗」が発生する可能性が高く、経済摩擦を生む。理論研究は、この市場の失敗を回避するには、(1)ゼロ関税の実現で貿易の利益を得ると同時に、(2)協調・統一的な産業政策を行うことを推奨している。第一に、中国は、規模の経済による利益を意図的に育成する「開発主義」を明確に取っており、他国の市場収奪の発生を示す実証研究もある。第二に、中国の極端に安い価格は、規模の経済(もしくは政策効果)を反映した比較優位となっている可能性が高く、補助金の規律づけを強化するだけでなく、規模の効果そのものの規律づけ、公平な競争を実現するためのルールの構築が望ましい。現在のWTOのルールに加え、規模の利益の国際的な分配を可能にし、また規模の力の政治的に用いることを抑制するための国際的なルールを追加することが望ましい。まず、自由貿易協定などの範囲で、規模の力の濫用を抑制し、統一的な産業政策の実行を可能にするための政策を模索し、産業基盤の破壊、交易条件の悪化といった「市場の失敗」を補正する仕組みの導入を進めることが現実的であろう。