職場ストレスに対する記憶の書き直し技法のWEB心理教育の有効性の探索:ランダム化比較試験

執筆者 浦谷 茜(千葉大学)/関沢 洋一(上席研究員)/栗田 幸平(大阪大学 / 千葉大学)/松友 三枝(千葉大学)/仕子 優樹(千葉大学)/清水 栄司(千葉大学)
発行日/NO. 2025年1月  25-J-002
研究プロジェクト 医療と健康についての今後の政策のあり方を探求するための基礎的研究
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概要

目的:労働者は仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じることがある。仕事の量や質の問題、仕事の失敗、責任の発生等に加えて、無理な配置転換、ワンマンオペレーション(ワンオペ)、職場いじめ、パワーハラスメント(パワハラ)等の強い職場ストレスは、うつ病、適応障害などの精神疾患の発症につながりうる。本研究では職場ストレスの記憶のつらさに悩む成人勤労者に対して、セルフヘルプ型認知行動療法のWEB心理教育プログラム群(Psychoeducation:PE群)がみせかけのWEB教育プログラムの対照群(Control:CON群)に比べて高い効果を有するかの検討を目的とした。

方法:職場ストレスの記憶のつらさに悩む18歳から65歳の勤労者を対象に、週1回20分程度で合計4回(4週間)のWEB心理教育プログラム(PE)群、対照的なみせかけのWEB教育プログラム(CON)群の2群のランダム化比較試験を行った。主要評価項目として心的外傷性ストレス症状を測定するIES-Rを,副次評価項目として 健康と労働パフォーマンス(WHO-HPQ)、うつ(PHQ-9、CES-D)、不安(GAD-7)、睡眠(AIS)、中核スキーマ(BCSS)、強さと困難さ(SDQ)を4週時と8週時に測定した。

結果:適格条件に合致した1010名を2群に割り付け、プログラムを75%以上実施した533名(PE群269名,CON群264名)を解析対象とした。4週時(プログラム終了直後)のPE群は、CON群との群間比較で、主要評価のIES-Rに有意差はみられなかったが、前後比較で、PE群とCON群のそれぞれのIES-Rの改善が示された。その他の副次評価でも群間比較の有意差はみられなかったが、PE群がCON群に比べて全般改善度の5段階評価において、4週時は有意差がなかったが、8週時に有意な改善を示した。

研究の限界として、非介入群(あるいは待機リスト群)の第3の対照群との比較データを持たない点などがあげられるため、本研究の結果の解釈は慎重にすべきで、さらに異なる研究デザインでの大規模な研究を必要としている。