執筆者 | 山内 勇(リサーチアソシエイト) |
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発行日/NO. | 2024年11月 24-J-027 |
研究プロジェクト | 国際的に見た日本産業のイノベーション能力の検証 |
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概要
特許審査は単に審査官が特許性の有無を判断するだけのものではなく、出願人と審査官が共同で事業に貢献する権利を作っていくプロセスでもある。本稿では、審査過程において行われる面接に着目し、それが特許権の権利範囲や安定性に与える影響を明らかにする。我が国では2014年に面接・応対に関するガイドラインが改訂され、出願人等から面接の申請があった場合、原則一回は面接を受諾することが明記された。本稿では、このイベントを操作変数とした推計を行うことで、重要な発明ほど面接が申請されやすく、同時に、権利範囲が広く安定性も低いといった内生性の問題に対処している。
分析の結果、ガイドラインの変更は対面での面接を増やしたことが明らかとなった。また、対面での面接は、請求項の文字数の変化率で測定した権利範囲の縮小を抑える効果があることも確認された。さらに、面接により、権利化後に無効審判の請求が生じる確率も低下しており、権利の安定性が高まることが分かった。これは、面接によって出願人の要望を取り入れる過程で、権利範囲が広くなり過ぎるといった問題が生じていないことも示唆している。すなわち、面接は、出願人と審査官の間の共通理解を促進し、過度の権利範囲の縮小・拡大を抑えることで、適切な権利範囲の特許権を生み出すことに寄与すると言える。
したがって、オンラインでの面接環境の構築など、面接にかかるコストを抑えつつ、面接の実施を促進していくことが、特許制度のイノベーション促進効果を高めることにつながると考えられる。