台湾の対中経済交流規制と中国の対応~中台CPTPP加入に関わるインプリケーション~

執筆者 伊藤 信悟(国際経済研究所)/川上 桃子(神奈川大学)
発行日/NO. 2024年9月  24-J-021
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)
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概要

中国と台湾は共にWTOに加入しており、中台FTAに相当するECFAも締結している。台湾はそれらを契機に対中経済交流規制の緩和を進めてきたが、WTO加入時の中台間交渉の欠如、「国家安全」、「産業発展」上の理由、「国際協力・協定の履行」を理由に、現在でも多くの貿易・投資規制を中国に適用している。中国政府は、これらの規制はWTO違反だと主張してきたが、台湾問題の「国際化」を避けるため、WTOを通じた紛争解決を選択してこなかった。代わりに、経済利益の供与により台湾企業・市民に対中経済交流の利点を意識させることで規制の削減、撤廃を促そうとしてきたが、対中開放に対する台湾市民の警戒感の高まり、民進党政権の長期化等が理由で、その試みは奏功していない。それゆえ、中国は近年、規制強化や優遇停止を通じて台湾への圧力を強めているが、WTOではなくECFAの枠内で制裁を科す等、台湾問題の「国際化」回避を続けている。中国、台湾は共に2021年にCPTPPへの加入を申請したが、中国は台湾が「一つの中国」の原則を認めない状態でCPTPPに加入することに強く反対しており、台湾の加入プロセスに中国がいかに関わるかが焦点となる。中台共にCPTPPメンバーとなるに際しては、台湾の対中経済交流規制がどこまで安全保障例外等で正当化され、台湾社会が対中開放をどこまで許容するか、中台経済交流がどこまでCPTPPルールで規律付けられるかが議論となる可能性がある。