ノンテクニカルサマリー

台湾の対中経済交流規制と中国の対応~中台CPTPP加入に関わるインプリケーション~

執筆者 伊藤 信悟(国際経済研究所)/川上 桃子(神奈川大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)」プロジェクト

2021年9月、日本の重要な貿易・投資先である中国と台湾がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への加入を申請した。CPTPPは「APEC(アジア太平洋経済協力)に参加する国又は独立の関税地域」に門戸を開いている。台湾はAPECのメンバーであり、WTO(世界貿易機関)には「台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域」として加入している。

しかし、中国は「一つの中国」の原則(注1)を受け容れていない台湾の民主進歩党政権によるCPTPP加入申請を台湾「独立」活動の一環と位置づけ、台湾の加入に強く反対している。その一方で中国は、台湾が「一つの中国」の原則を堅持しさえすれば、台湾のCPTPP加入に関して「適切な手配」も可能だと表明しているが、「一つの中国」の原則に基づく中国との統一に対する台湾市民の支持はむしろ低下している。「台湾独立行為に対していかなる便宜やプラットフォームも提供しないよう望む」と、台湾のCPTPP加入に対する他国の支援を中国が強くけん制するなか、中国、台湾のCPTPP加入手続きをいかに設計するかが問われている。

CPTPPメンバーはWTOでの約束を大きく上回る高水準の市場アクセスを互いに提供することになっている。しかし、台湾は現状中国との経済交流に対して多くの規制を残している。例えば、約2500品目の中国製品の輸入禁止措置、中国企業による対中投資規制などである(表)。これらの規制は、中国企業・製品との競争により台湾の産業がダメージを受けたり、経済を梃子とした中国の統一攻勢に脆弱となり「国家安全」に悪影響が及んだりすることを回避するために、中国・台湾が共にWTOに加入した後も残されている。その一方で、台湾は対中関係改善に積極的であった馬英九政権期の2010年に中国とFTA(自由貿易協定)に相当するECFA(海峡両岸経済協力枠組み協議)を締結しているものの、台湾が優遇関税を適用している中国製品は267品目とかなり限定的なものにとどまっている。

中国は、台湾の対中経済交流規制はWTOの最恵国待遇ルール等に抵触していると非難しているが、WTOを通じた紛争解決は避けてきた。「台湾問題の国際化」に繋がり、「一つの中国」の原則を損なうと考えているためである。同様の理由から、台湾の対中経済交流規制に対する報復措置もECFA違反を理由としたECFAの優遇税率の一部停止にとどめている。一方、台湾側も中国の「経済的威圧」行為はWTO違反だとしつつも、WTOへの提訴は控えてきた。それゆえ、CPTPPに中国、台湾が共に加入した場合も、双方がCPTPPによる紛争解決を避けることで、中台経済交流がCPTPPによって完全には規律されない状態が続く可能性も考えられうる。

一方、CPTPPルールと台湾の対中経済交流規制の整合性が問われる場合には、安全保障例外等によってどの程度規制が正当化されるかが議論となりうる。米中対立の激化を背景に、安全保障例外の適用範囲をめぐって国際的に議論が起きている。そこでの議論がCPTPPにおける中台経済関係のあり方にも影響を与える可能性があることも意識しておく必要があろう。

表 台湾の対中経済交流規制の代表的事例
表 台湾の対中経済交流規制の代表的事例
(注)2024年4月30日時点。
(出所)伊藤信悟・川上桃子「台湾の対中経済交流規制と中国の対応~中台CPTPP加入に関わるインプリケーション~」『RIETI Discussion Paper Series』24-J-021、4~7頁より作成
脚注
  1. ^ (a)世界で中国はただ一つで、(b)台湾は中国の不可分の一部であり、(c)中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府であるとする中国の主張。