移転企業の特性:地方創生の視点から

執筆者 伊藤 匡(学習院大学)
発行日/NO. 2023年12月  23-J-050
研究プロジェクト 地方創生の検証とコロナ禍後の地域経済、都市経済
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概要

新型コロナウィルス感染症パンデミックを機に遠隔による業務遂行がなされるようになり、いわゆるニューノーマル(新たな慣習)が生まれた。東京の本社を閉鎖もしくは、東京から近隣都道府県や地方に本社を移転した企業も多くある。地方創生は、10年来の日本政府の重要政策の一つであるが、企業の移転が地方経済の発展に結びつくことによって、同政策を推し進めることが可能であろう。本稿では、移転する企業及び経営者の特性を明らかにし、また企業の流入が新しいビジネスの誕生や新しい取引関係の構築を通じて地方経済の活性化に与える可能性について考察した。分析の結果、移転している企業の割合は他の先進国における分析結果と同様に極めて少なく、都道府県間の移転は全期間を通じて存続していた企業の0.74%にしか過ぎないこと、ほとんどの移転企業は近接地域に移転していること、規模が大きい企業や生産性の高い企業、また若い(存続期間が短い)企業及び若年経営者の企業の方が移転する傾向にあること、情報産業は中心地に集積・移転している傾向が見られること、移転した企業は取引相手先を変更する傾向にあること、取引顧客の近くに移転する傾向が若干見られること、更には、新規参入企業が多い地域・産業と同地域・産業の業績の間に正の相関関係があることが確認された。しかしながら一方で雇用者規模の大きい企業でも東京、大阪及びその近接都道府県から地方に移転している企業も相当数存在すること、中心地から非中心地への移転企業には製造業が多く雇用規模も小さくないことも確認された。