最低賃金が企業ダイナミクスに与える影響分析

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年10月  23-J-038
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

近年の最低賃金上昇は、人件費を上昇させて、非効率的な企業を退出させるクレンジング効果がある一方、企業の退出による競争の低下で生産性の高い企業の参入と成長が活発になり、企業ダイナミクスを促すことが考えられる。

製造業事業所・企業を中心に行われてきた先行研究に加え、本研究では、総務省『経済センサス-基礎調査』と経済産業省・総務省『経済センサス-活動調査』の調査票情報も利用して、非製造業を含める市場経済で、最低賃金の上昇が企業・事業所の参入・退出、資本蓄積、雇用の変動など、企業ダイナミクスに与える影響を分析する。分析結果から得られた主な知見は以下のとおりである。

(1)最低賃金の引上げは企業の労働生産性やTFPの上昇と正の関係を持つが、その関係は生産性、や平均賃金などが高い企業グループや都道府県に限られる。
(2)2011~2015年における最低賃金の引上げに対して、日本企業は資本と正社員を減らし、臨時社員を大幅に増やすことで対応した。従業者総数は有意な影響を受けていないが、正社員は臨時社員に置き換わった。ただし、正社員の減少は平均賃金と全要素生産性が低い企業でより顕著であった。
(3)これによって、企業の資本労働比率は低下したが、電子商取引の導入などによって企業はTFPを上昇させ、労働生産性も上昇したと考えられる。
(4)最低賃金の引上げは企業の退出を促すと正の関係を持つ。
最低賃金が企業ダイナミクスに与える影響は、企業によって異質的である。最低賃金の上昇が生産性の上昇につながるのは、そもそも生産性と賃金率が高く、競争力を持った企業に限られる。