従業員の高齢化がイノベーションと生産性に及ぼす影響に関する実証分析

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2023年9月  23-J-036
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

日本の高齢化と人口減少が急速に進行していることを背景に、本研究は高齢化が企業のイノベーションと生産性上昇に与える影響を、上場企業のデータを用いて分析する。従業員の高齢化には二つの側面がある。年齢が高くなり、勤続年数が伸びることは仕事の熟練、経験と学習による人的資本の蓄積などにつながって、労働者の生産性を伸ばす可能性がある。他方、新しく挑戦的なイノベーションとビジネスのための投資や組織改編などを鈍らせ、組織の硬直化とパフォーマンスの低下を招く可能性もある。

本論文では、日本政策投資銀行の『企業財務データバンク』のデータと『IIPパテントデータベース2020年版』を用いて従業員の平均年齢が企業の生産性とイノベーションに与える効果を推計している。分析から得られた主な知見は以下のとおりである。

(1)1970年代以降、上場企業の従業員平均年齢は上昇を続けている一方、平均勤続年数には大きな変化がない。
(2)従業員の平均年齢の上昇は生産性を高めるが40歳半ばから正の効果が低下し、45歳以降は負の影響を与える逆U字型をしている。
(3)従業員の平均勤続年数の伸びは企業の生産性を高め続け、逆U字型ではなく、右上がりの直線型である。
(4)企業年齢50歳までの比較的若い企業では従業員平均年齢より勤続年数が重要な役割を果たすが、51歳以上の比較的古く成熟した企業では従業員の平均年齢が生産性の面で重要であり、平均勤続年数はほとんど有意な差をもたらさない。
(5)特許でとらえたイノベーションは、量(特許出願件数)でも質(出願後5年間被引用件数)でも新規性(AIやロボット特許の出願件数)でも拡張性(特許ポートフォリオに自己類似性)でも、従業員の平均年齢の上昇が正の貢献をし、勤続年数の長期化は負の影響を与える。
(6)従業員の平均年齢と平均勤続年数はともに平均賃金の上昇と正の関係にあるが、年齢効果が勤続年数の効果より大きい。