企業グループ内の資源再配分がマクロ経済の全要素生産性に与える影響

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)
発行日/NO. 2023年7月  23-J-023
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

終身雇用や年功序列賃金を特徴とする日本型雇用慣行の下では、中途採用のための労働市場の未発達や大企業の正規雇用を中心とした解雇の困難さにより、企業間または企業グループ間の労働の再配分が妨げられている可能性が高い。大企業を中心に正規労働者を中心に雇用が保障され労働の流動性が低い日本では、企業内労働市場が重要な役割を果たし、企業グループ内においても人材ポートフォリオの再配分や資金の貸借が行われている可能性が高い。企業間再配分効果のうちの一部は、市場の淘汰メカニズムとしてではなく、企業グループの意思決定の結果として捉える必要がある。本論文では、Foster, Haltiwanger, Krizan (2001) による生産性動学の分析方法に企業グループの要因を加味することにより、『経済産業省企業活動基本調査』のミクロデータを用いて、全要素生産性上昇を、単独企業及び企業グループの内部効果・資源再配分効果に分解し、相対的な重要度を計測した。

2000-2010年では、企業グループによる貢献が過半を占めていた。大企業の海外移転や国際化、商法改正、労働者派遣事業の規制緩和などを背景に、グループ企業の内部効果、グループ内の再配分効果、所有構造変更を伴う企業グループのシェア変化による資源配分効果が生産性上昇に大きく貢献した。2010−2018年では単独企業が係わる効果が過半を占めたが、2000-2010年に比べ減速した。減速の主因は、所有構造変化を通じて企業グループの産業内でのシェアが変化することによる資源再配分効果が大幅に減少したこと、グループ企業の内部効果と、企業グループ内の再配分効果が大幅に減少したことによる。

雇用の保障の程度が低い中小企業が含まれる単独企業間では市場競争を通じた淘汰が機能しており、企業グループ間、または企業グループと単独企業の間の資源再配分以外の再配分は極めて停滞している。企業グループでは、M&A等を通じて雇用を保障しながら労働の再配分が行われている可能性がある。