新型コロナウイルス感染症流行下の企業間資源再配分:企業ミクロデータによる生産性動学分析

執筆者 金 榮愨(専修大学)/深尾 京司(ファカルティフェロー)/権 赫旭(ファカルティフェロー)/池内 健太(上席研究員(政策エコノミスト))
発行日/NO. 2023年4月  23-J-016
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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備考

初版:2023年4月
改訂版:2023年7月

概要

COVID-19流行下の経済では、小売業や運輸業、飲食店・旅館業等、一部の非製造業への需要減少、グローバルな感染拡大による国際貿易の停滞、在宅勤務等による情報通信サービスへの需要増加、など需要の大幅なシフトが起きた。米国など雇用の流動性が高い諸国では、産業間・企業間で活発な資源再配分が起きたことが知られている。日本の場合には、大企業を中心に正規雇用の解雇が困難であること、政府が雇用調整助成金やコロナ特別貸し付けにより既存の雇用維持、倒産防止を図ったことなどにより、需要シフトに対応した企業間の資源再配分が円滑に進まなかった可能性がある。本研究では、東京商工リサーチの企業財務データを用いて、日本の民間生産活動全般を対象に、コロナ禍で企業間資源再配分がどのように変化したかを、生産性動学分析及びゾンビ企業のシェアの動向を計測することで分析した。

TFPに関する生産性動学分析によると、2018-21年には、雇用が硬直的であることをおそらく背景として、大企業では大きなマイナスの内部効果が生じ、特に非製造業を営む大企業ではTFPが大幅に下落した。一方この時期の中小企業では、正の共分散効果とシェア効果、および参入効果によって、TFP上昇がプラスであった。特に製造業を営む中小企業では、TFP上昇が加速した。中小企業を中心に市場の淘汰メカニズムが機能したと言えよう。一方、インタレスト・カバレッジ・レイショが数年にわたって1未満である企業をゾンビ企業とみなすと、総従業者に占めるシェアで見て、ゾンビ企業の割合は2011年にピークに達した後、徐々に低下した。COVID-19が流行した2020年以降やや増加が見られるが、2009年から2011年にかけての急増と比較すると2020-21年の増加は著しくなかった。