社会活動と骨格筋量との関連

執筆者 田原 康玄(静岡社会健康医学大学院大学 / 京都大学)
発行日/NO. 2022年7月  22-J-028
研究プロジェクト 文理融合による新しい生命・社会科学構築にむけた実験的試み
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概要

高齢者のフレイルは、寝たきりや要介護の強いリスク因子であることから、その早期発見と予防介入が個人と社会の健全化において重要な意義を持つ。フレイルには身体的、社会的、精神的要素が含まれ、このうち身体的フレイルの主たる原因は、サルコペニアである。サルコペニアとは、骨格筋の減少と身体機能の低下が併存した状態をいう。これまでに明らかにされたサルコペニアの代表的なリスク因子として、加齢、低体重、低栄養、日常生活活動の低下が挙げられる。加えて社会活動の低下もサルコペニアの要因となることが指摘されているが、両者の関連について検討した研究は少ない。そこで本研究では、地域住民を対象に社会活動とサルコペニアの要素である骨格筋量との関連を検討した。

滋賀県長浜市民を対象とする長期縦断研究(ながはまコホート)の登録者2,212名を解析対象とした。社会活動を含めた社会経済因子に関する質問調査は、郵送法で実施した。生体インピーダンス法で測定した四肢骨格筋指数(skeletal muscle mass index: SMI)を骨格筋量の指標とした。

対象者の平均年齢は71.0 ± 4.1歳、男性が43.0%であった。SMIは女性で有意に小さく、男女ともBMIと正相関した。対象者のうち、職業を有する者に限定した解析において、農林漁業従事者でSMIが有意に高値であった。近所付き合いの程度と人数もSMIと有意に関連し、近所付き合いが限定的であるほど、また頻度が少ないほどSMIが有意に低値であった。社会活動との関連では、地縁活動、スポーツ・趣味・娯楽活動、ボランティア・NPO・市民活動のいずれにおいても、参加頻度が高いほどSMIが高値であった。これらの関連は主要な共変量とは独立であり、また男女別の解析でも同様であった。

本研究と先行研究の結果を考え合わせると、高い社会活動は、SMIの低下はもとよりサルコペニアの発症に対して予防的に作用すると結論づけられる。