日本の研究開発のスピルオーバー効果:長期データによる検証(1983-2019)

執筆者 枝村 一磨(神奈川大学)/長岡 貞男(ファカルティフェロー)/大西 宏一郎(早稲田大学)
発行日/NO. 2022年6月  22-J-024
研究プロジェクト イノベーション能力の構築とインセンティブ設計:マイクロデータからの証拠
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概要

本稿では、企業、公的研究機関、大学の研究活動に関する1983年から2019年までのパネルデータを利用して、企業間だけでなく、企業と公的研究機関、企業と大学との技術距離を算出し、企業が公的研究機関や大学から享受するスピルオーバーの代理変数として、スピルオーバー・プールを算出する。企業や公的研究機関、大学に属する研究者の研究分野別人数や、特定分野別の研究費支出額の情報を用いて、企業、大学、公的研究機関の技術距離を計算し、それをウェイトとして研究費を集計し、スピルオーバー・プールを算出してスピルオーバー効果を測定する。また、産学官の各機関が支出する基礎研究費、応用研究費、開発研究費の情報を利用し、研究活動の成果区別スピルオーバー・プールも算出する。算出したスピルオーバー・プールを用いて、企業の研究開発費に与える影響を定量的に捕捉することを試みたところ、企業、公的研究機関、大学からの知識スピルオーバーを集計した社会全体の知識スピルオーバー効果は、企業の研究開発費とマイナスの相関があるという結果を得た。ただし、個々の組織別や研究開発の性格別に分けた推計では、正負両方の相関を示す結果となり、知識スピルオーバーが企業の研究開発に与える影響は多様である可能性を示唆するといえる。