データ共有政策が生み出す物品貿易の競争歪曲に関する規律:―WTO補助金協定との関係に着目して―

執筆者 渡辺 翔太(野村総合研究所)
発行日/NO. 2022年5月  22-J-021
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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概要

経済のデジタル化に伴い、データ活用が製品・サービスの競争力に与える影響が高まる。これを背景として、新興国を中心に政府が収集・蓄積したデータを特定企業に無償提供する事例が増加しているが、政府介入で競争力が強化された製品やサービスが市場で外国産品と競合する場合、当該市場は公正な競争環境とは言い難い。本稿はWTOの補助金協定に着目し、物品貿易に範囲を限定して、同協定が上記事例にどの程度規律を及ぼせるか、その実効性と限界の検討を目的とした。

先例を中心に協定解釈を検討して上記事例に当てはめた結果、データの無償提供が役務提供に該当し、特定性と資金面の貢献があれば補助金に該当すること、したがって競争歪曲の是正に向けて相殺関税の賦課や補助金の交付停止を求められる点を明らかにした。課題として、デジタル製品は競争軸が多様でありデータ提供が悪影響にどの程度寄与したか、因果関係の立証が困難であることも明らかとなった。

加えて、データの無償提供は実際にはサービスの高度化により寄与するため物品貿易よりサービス貿易に影響を与えるが、サービス補助金への規律を欠く現行WTO協定では十分な規律が及ぼせないこと、我が国が進めるオープンデータ政策についても上記の競争歪曲に対する考慮が必要であること、等の政策的示唆を得た。