ライバルに対する評価バイアス―360度評価結果を用いた検証

執筆者 髙橋 拓也(早稲田大学)
発行日/NO. 2022年5月  22-J-020
研究プロジェクト 人事施策の生産性効果と経営の質
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概要

本稿では製造業企業1社の360度評価データを用いて、ライバル関係が同僚からの評価にどのようなバイアスをもたらすか検証を行った。ライバル関係は、昇進確率の近さや所属・入社年などの属性の一致性で捉えた。また、バイアスは、上司・部下による評価から予想される同僚評価期待値からの実際の同僚評価スコアの乖離で測っている。その結果、(a)評価者と被評価者の昇進確率の差の絶対値が小さい場合、あるいは(b)評価者と被評価者が同じ部にいる場合、同僚評価に負のバイアスがかかる傾向があることを示した。こうした下方バイアスは、トーナメント理論と整合的である。

この企業では、360度評価を実施する際には評価にバイアスがかからないよう、報酬や昇進など処遇の決定に結果を使わないことを明記している。同僚でライバル関係にある相手を評価する際には、そうした配慮の下でも負の評価バイアスが生じうる。属性や働く場所が近い評価者は被評価者に対して多くの情報を有する一方で、評価には下方バイアスがかかり情報の精度が落ちるというトレードオフが働く。360度評価を人事施策や研究に利用する際には、こうしたバイアスを補正する工夫が必要である。