執筆者 | 梅島 修(高崎経済大学) |
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発行日/NO. | 2022年4月 22-J-016 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期) |
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概要
WTO上級委員会のWTO協定解釈を問題として同委員の選任を拒否し、その機能を停止させた米国が2020年2月、当該解釈の批判を公表した。本稿は、当該批判のうち貿易救済措置に関する議論、すなわち、補助金の交付主体である「公的機関」の定義、補助金額を計算するため比較対象とする市場ベンチマークの認定、ダンピングマージン計算におけるゼロイングの禁止、相殺関税と非市場経済法に基づくAD関税の併課、セーフガード調査におけるGATT第19条の適用及び不帰責原則の解釈について、正当性を検証するものである。
補助金に関する米国の主張は十分な根拠がある。上級委員会は、SCM協定の文脈から離れて「公的機関」を定義し、「市場」の意味を検討せずに政府の介入による個別価格の歪曲の立証を求めた。同協定第19.3条に基づく二重救済禁止の判断もその規定を超える義務を認定したものであるが、GATT第6条5項の併課禁止の解釈に誤りはない。他方、他の3項目の解釈はWTO協定の各条項の文言を整合的に解釈して得た唯一の結果である。ウルグアイラウンドにおいて合意した協定の条項が米国の意図を反映した規定ぶりとなっていなかったに過ぎない。