執筆者 | 山本 勲 (慶應義塾大学)/福田 皓 (慶應義塾大学)/永田 智久 (産業医科大学)/黒田 祥子 (ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2021年8月 21-J-037 |
研究プロジェクト | 働き方改革と健康経営に関する研究 |
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概要
本稿は、健康経営をテーマに2つの角度から分析することを目的としたものである。第一の分析では、健康経営銘柄(経済産業省・東京証券取引所の表彰制度)の効果測定を行う。具体的には、合成コントロール法(Synthetic control method)という政策評価手法を用いて、表彰された上場企業の企業価値が、同業他社と比べて高まるかを検証する。第二の分析では、健康経営銘柄や健康経営優良法人に応募するために各企業が回答した「健康経営度調査」(2016〜2019年度)の個票データを用いて企業の健康経営施策と、従業員の健康状態や利益率などの企業業績との関係を固定効果モデルの推計によって検証する。分析の結果、以下が明らかとなった。第一の分析では、健康経営銘柄に選ばれた企業の企業価値と、その企業が選ばれなかったとする反実仮想の企業価値の推移を同業他社からノンパラメトリックに推定し比較したところ、健康経営銘柄の表彰によって企業価値が高まる傾向が確認された。次に、第二の分析では、従業員の健康を明示的に経営理念に掲げて社内に浸透させるような施策を実施すると利益率にプラスの影響をもたらすことや、労働時間管理に関連する施策が非上場企業で利益率にプラスの影響を与えることが確認できた。さらに、健康経営施策が利益率を高めるメカニズムに焦点を当てた検証をした結果、企業が従業員の健康を経営理念に掲げて健康経営を実施すると、すぐに各種健診の受診率が高まることや1年後に適正体重者率や十分な睡眠者率などの問診結果で評価した健康アウトカムが改善する傾向が示された。また、問診結果で評価した健康アウトカムの改善は、利益率を有意に高めることも明らかになった。以上の結果より、健康経営の実施は健康アウトカムの改善を通じて、企業の利益率を高めるプラスの影響をもたらす可能性があるといえる。