欧州司法裁判所Schrems II事件判決が越境データ流通に与える影響の考察―我が国の推進するDFFT構想への影響を中心にして―

執筆者 渡辺 翔太 (野村総合研究所)
発行日/NO. 2021年7月  21-J-035
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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概要

欧州司法裁判所(CJEU)Schrems II事件では、EUから米国へのデータ移転に関する法的根拠とされてきたプライバシーシールド(PS)と標準契約条項(SCC)の有効性が争われ、その帰結は日本の国際的なデータ流通政策にも影響を与える。
PSの前身セーフハーバー協定の無効を判決したCJEUのSchrems事件で、CJEUは米国政府の監視活動がEUのデータ保護水準に適合しないとし、欧米間でPSを締結し米国の監視活動に対するデータ保護を強化したが、本判決はPSをもってしても米国のデータ保護は欧州の水準に達しないと判断した。ここではGDPR下でも従来の基準で外国の監視活動のデータ保護水準が評価された点が重要である。
本判決はさらに、十分性認定があるとしても、EUデータ保護監督機関が苦情処理の中で越境移転の停止を命令できること、SCCは有効であるが相手先国のリスクに応じ追加的保護措置をとる必要があることを判断した。
本稿はその示唆として、日本政府はDFFT構想等において政府による強制力を持った民間データへのアクセスの規律を検討しているが、EUの考えも方向性を同じくする点を明らかにした。また、EU加盟国の監視がGDPRの適用外とされる中、外国にのみデータ保護を求めるのは内外差別とする批判の当否を検討した。