サービス産業における労働生産性上昇の源泉:JIPデータベースを用いた産業レベルの実証分析、1955-2015年

執筆者 深尾 京司 (ファカルティフェロー)/牧野 達治 (リサーチアシスタント)
発行日/NO. 2021年3月  21-J-018
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

1990年代以降の日本では、労働生産性が長期にわたって停滞し、これが主因となって人々の平均実質所得・賃金率はほとんど上昇しなかった。本論文では、新たに作成したJIPデータベース2018等を用いて、経済の供給側の視点から、日本における労働生産性上昇の源泉と生産性停滞の原因を調べる。この論文では、従来の研究と比較して次の3点に注力する。

第一に、マクロ経済に関するデータを用いた成長会計分析ではなく、詳細な産業別データを用いた成長会計分析を行う。第二に、本論文では、どの産業が経済全体の物的資本や人的資本の蓄積を主導したか、どのような形で労働の産業間再配分が起きたのかなど、労働生産性を上昇させた原因にまで遡って詳しく調べる。第三に、JIPデータベースを過去に遡及することにより、1955-2015年という長期間について産業別データに基づく成長会計分析を行う。これにより、高度成長期(1955-70年)、安定成長期(1970-90年)と比較して、長期停滞期(1990-2015年)に労働生産性が停滞したのは何故なのか、どの産業に原因があったのかを明らかにする。

分析の結果、1)高度成長期以来の日本の労働生産性上昇において、資本蓄積、労働の質上昇、TFP上昇いずれで見ても第三次産業が重要な役割を果たし、その重要度は近年更に高まった、2)マクロ経済の労働生産性上昇の8割以上が産業内効果によるものであった、3)労働の質上昇の寄与は次第に大きくなり、長期停滞期には資本蓄積に次ぐ寄与となった、等が分かった。