電子商取引と企業パフォーマンス、経済のダイナミズム:『経済センサス-活動調査』調査票情報による実証分析

執筆者 金 榮愨 (専修大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)/深尾 京司 (ファカルティフェロー)/池内 健太 (研究員(政策エコノミスト))
発行日/NO. 2021年3月  21-J-016
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

電子商取引の導入と企業パフォーマンスに関する先行研究のほとんどはサンプル調査によるもので、範囲も限られる。本研究は、主に『経済センサス-活動調査』を用いることにより、日本企業全体をカバーするデータによって、日本企業の電子商取引導入とパフォーマンスの関係、近接産業や地域経済への波及効果およびダイナミズムを分析する。

分析結果によれば、電子商取引を導入する企業は生産性が高く、全要素生産性(TFP)の上昇率も有意に高い。これらをもたらすのはB2Cではなく、主にB2Bである。また、自社の電子商取引導入は自社の雇用を増やし、賃金を押し上げる。しかし、同産業もしくは同産業・県で電子商取引導入が進んでも雇用の減少は確認されない。地域・産業の電子商取引導入率が高いほど、賃金は高くなることが確認できる。

一方、産業・県での電子商取引導入率が高い場合、属する企業の退出の確率が高まり、市場集中度(HHI)が高いことが確認された。これは競争の激化によって、生産性全体は上がるが、退出の確率も同時に上がるためであると考えられる。ただし、マークアップに関連しては電子商取引の有意な影響は確認されなかった。

商業に限った分析では、電子商取引の生産性への影響が売上規模に大きく左右され、売上高の大きい企業のメリットが大きい反面、中小規模以下の企業のメリットはない可能性があることが分かった。商業、特に卸売業での電子商取引の導入率の低下の一部はこれによって説明できる。