アベノミクス下のビジネス・ダイナミズムと生産性上昇:『経済センサス-活動調査』調査票情報による分析

執筆者 深尾 京司 (ファカルティフェロー)/金 榮愨 (専修大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)/池内 健太 (研究員(政策エコノミスト))
発行日/NO. 2021年3月  21-J-015
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

生産性が比較的順調に上昇したアベノミクス前期において、ビジネス・ダイナミズムはどれほど機能したのだろうか。本論文では、2011年と2015年を対象とする『経済センサス-活動調査』の調査票情報を使って労働生産性と全要素生産性(TFP)に関する生産性動学分析を行い、この問題を分析した。また、生産性上昇をどのような属性の企業が牽引したのかを調べた。この時期生産性を上昇させた主因は、労働生産性については企業内での生産性上昇(内部効果)であったが、TFPについては、内部効果ではなく、企業間の資源再配分(生産性を上昇させた企業が付加価値を増やしたことによる共分散効果、もともと生産性が高い企業ほど市場シェアを伸ばしたシェア効果、および生産性の高い企業の新規参入)を通じてであった。生産性の高い企業が退出したため、退出効果はマイナスであったものの、この時期の生産性上昇の原動力は企業間の資源再配分であったと言える。生産性上昇をもたらした企業間の資源再配分は、規模の大きい企業群において、また製造業よりも非製造業で、特に活発であった。企業規模(4等分して分析した)や社齢と企業内のTFP上昇(内部効果)の関係を見ると、非製造業においては二番目に規模が大きく社齢20 −30年の企業群においてTFP上昇率が最も高く、製造業では規模が小さく社齢10年以下の企業群が最も高かった。一方この時期、企業間の生産性格差は拡大した、また市場集中度(ハーフィンダール指数で測っている)は下落し、平均マークアップ率(売上高を総費用で割った値)は上昇した。マークアップ率の上昇は、マークアップ率の高い企業のシェア拡大によってではなく、企業規模や社齢にあまり関係なく、主に企業内で生じた。製造業では輸出比率の高い業種でマークアップ率が特に上昇しており、これは円安が進んだ影響を反映していると推測される。