AI、ロボット技術の進展と企業パフォーマンス

執筆者 金 榮愨 (専修大学)/乾 友彦 (学習院大学)
発行日/NO. 2021年3月  21-J-009
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
ダウンロード/関連リンク

概要

本研究は、特許出願によってとらえられるAIやロボット技術の進展が、当該企業の生産性や雇用に与える影響の分析である。企業の特許出願の情報によって当該企業におけるAIとロボット技術の進展状況をとらえ、企業の生産性と雇用、国内外の生産活動に与える影響を分析している。分析の結果は以下のとおりである。AI技術の進展は企業の全要素生産性(TFP)とプラスの関係がみられた。また、AI技術の進展は、製造部門の雇用者数にマイナス、サービス部門の雇用にはプラスの関係にあることが判明した。ロボット技術の進展も企業の生産性を押し上げる効果が確認できた。雇用全体に関してはAI関連技術の進展と同様、有意な影響は確認されなかったが、それは、ロボット技術の進展が製造部門と販売部門の雇用者数を有意に減少させる一方で、サービス部門の雇用者数を増加させることで雇用全体への影響が打ち消されることによるものと考えられる。この結果は、Ni and Obashi (2021)やAdachi, Kawaguchi, and Saito (2020)の結果と同様、日本においてはロボットと雇用は全体としては補完的であることを示している。

AIやロボットの技術の進展は国内外の生産体制にも変化をもたらす。国内の既存の生産事業所を縮小させ、退出確率を高めると同時に新規事業所の開設確率をも高めることによって、企業内事業所間の資源の配分を効率化することで企業全体のTFPを高める。またAIやロボット技術の進展は国際競争力を高め、全体として海外生産を促進させる一方、低賃金を目的とする低所得国での生産活動は縮小させる効果がある。