ノンテクニカルサマリー

AI、ロボット技術の進展と企業パフォーマンス

執筆者 金 榮愨 (専修大学)/乾 友彦 (学習院大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

AI、ロボット技術の進歩が近年急速に進んでいる。全体の特許出願数が減少している中で、AI、ロボットの特許出願数は2010年代において、急増している(図参照)。本稿はこのようなAI、ロボット技術の発展が企業の生産性、部門別雇用者数に与える効果を分析した。企業におけるAI、ロボット技術の進展の指標として、特許出願件数に、その特許の被引用件数などを使用した。被引用件数が多い特許ほど重要な技術であるものとみなした。

分析の結果、AI技術およびロボット技術の発展と企業の全要素生産性(TFP)にプラスの関係がみられた。AI技術の発展は、製造部門の雇用者数とマイナス、サービス部門の雇用者数とはプラスの関係にあることがわかった。ロボットの技術の発展は、製造部門、流通部門の雇用者数とマイナス、サービス部門の雇用者数とはプラスの関係にあることも判明した。両技術の発展は、製造部門の雇用者数を減少させる一方で、サービス部門の雇用者数を増加させ、雇用者数へのプラス、マイナスの影響が打ち消されることによって全体の雇用者数にはマイナスの影響を与えない。

分析結果、AIやロボットのような新技術の導入は国内生産工場のTFPを直接押し上げる効果はないとみられる。しかし、既存の技術を利用している事業所の雇用を縮小させ、その事業所の退出確率を高め、企業の傘下の新規事業所の開設確率を高めることで、企業のTFPを高めている。

加えてAI、ロボット技術の発展は、ともに海外の生産活動を促進するが、低所得国での生産活動は縮小させる。低賃金を目的とする海外展開がAIやロボットなどのオートメーションによってその魅力を失うためと考えられる。

図:経済産業省企業活動基本調査対象企業におけるAI技術、ロボット技術、技術全体の特許出願数の推移(1994年~2017年)
図:経済産業省企業活動基本調査対象企業におけるAI技術、ロボット技術、技術全体の特許出願数の推移(1994年~2017年)
出所:知的財産研究所の『IIPパテントデータベース2020年版』と経済産業省企業活動基本調査により著者作成

本研究の結果から、AIやロボット等の先端技術の導入はTFPを上昇させるが、心配されるような雇用への大きなマイナスの影響は観察されていない。そこで、AI技術、ロボット技術の開発、導入により積極的な政策支援を検討することが望まれる。また同時に雇用への需要が製造、流通部門からサービス部門にシフトすることから、企業内での労働者の移動に制限がある中小企業に対して、このような労働需要のスムーズなシフトをサポートする政策対応が必要である。