原子力発電所事故と日本人の価値観

執筆者 広田 茂 (京都産業大学)/要藤 正任 (国土交通省)/矢野 誠 (理事長)
発行日/NO. 2020年5月  20-J-029
研究プロジェクト 市場の質の法と経済学に関するエビデンスベースポリシー研究
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概要

本稿では内閣府の「生活の質に関する調査」を利用して、2011年の東日本大震災に伴う福島第1原子力発電所の事故が、人々におけるさまざまな価値の相対的な関係としての価値観に、どのような影響を与えたかを分析した。

家族関係を重視するほど一般に現在・将来の幸福度や生活満足度は高い傾向にあるが、福島原発に近いと、その度合いは高まっており、大きな災害を経験し、不安を感じているときに家族の絆がより深まっていることが示唆される。健康を重視するほど一般に将来の幸福度や自己決定可能感は高いが、福島原発に近いとその度合いは弱まる。原発事故は健康によって可能となる将来の幸福や自己決定に負の影響をもたらしている。また、福島原発に近い場合、報道機関への信頼度合いが高いと、生活満足度は低い傾向にある。地方議会への信頼度が高いと、福島原発に近いとき、将来の幸福度は高い傾向にある。国や国会よりも地方議会への信頼が、将来の幸福度展望に大きな影響を及ぼしていることが窺われる。

このように原子力発電所事故は、家族観や健康、報道機関への信頼と幸福度などとの関係として表される価値観に、大きな影響をあたえていることが明らかになった。