執筆者 | 金 榮愨 (専修大学)/乾 友彦 (学習院大学) |
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発行日/NO. | 2020年4月 20-J-023 |
研究プロジェクト | 人工知能のマクロ・ミクロ経済動態に与える影響と諸課題への対応の分析 |
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概要
近年の日本企業によるIT化は、自前でIT資産を蓄積することから、クラウドコンピューティングの利用をはじめとしたITサービスの購入へとシフトしてきている。本稿ではITサービスの代表的なものとしてクラウドコンピューティング導入と情報システム統括役員が企業のパフォーマンスに与える影響に注目する。
本研究では経済産業省による「情報処理実態調査」と「経済産業省企業活動基本調査」の調査票情報をマッチングし、クラウドコンピューティングの導入が企業の生産性、売上、従業者数、事業所数等のパフォーマンスに与える効果を分析する。企業固定効果をコントロールしても、クラウドコンピューティング導入は企業の売上を伸ばし、生産性を高め、企業の海外展開を加速させる。売上は主業でも伸びるが、副業での売上がより大きく増加する。R&D支出は増えない一方で特許保有件数は増加する。
一方、本稿は日本企業で導入が遅れている制度の一つである情報システム統括役員(Chief Information Officer, CIO)の導入効果も検証している。CIOの導入は売上を増加させるが、生産性には有意な影響が確認されない。CIOを導入した企業は、主産業の売上が増加し、事業の集中度が高まる。クラウドコンピューティング導入の効果と同様、CIO導入はR&D支出を増加させないが、特許保有件数を増加させる。
このように、クラウドコンピューティングとCIOの導入は企業の生産性、成長とイノベーション活動の効率化に貢献することが示唆される結果が得られた。