卸売・小売サービス価格指数の長期遡及推計-価格・数量の分離問題と生産性

執筆者 野村 浩二 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2020年2月  20-J-007
研究プロジェクト 生産性格差と産業競争力
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概要

卸売・小売業は日本経済の競争力評価において鍵となる産業であるが、そのサービス生産額における価格と数量の分離問題など、経済測定としての課題が長く指摘されてきた。本稿は、卸売では5740分類、小売では6888分類へと細分化したレベルにおいて、取引対象となる仕入額およびマージン額において、その価格と数量からなる卸売・小売サービス生産データベース(WRJ)を構築し、計数の検討と商業部門の生産性評価をおこなうことを目的としている。測定対象期間は1955–2017年である。本稿での測定によれば、商業サービス価格の成長率として、現行の国民経済計算における全観測期間の推計値ではWRJの基準ケース(Case 4)と類似している。しかしその時系列推移では、現行推計値は1980–2005年では過小に評価され、逆に2005–17年には過大評価されている可能性が大きい。2005–17年において、商業サービス価格の現行推計値は上昇しているが、異なる仮定に基づくすべてのWRJ推計値が低下し、また商業部門におけるKLEMS集計投入価格も低下している。それはこの期間、年率0.3%ほど商業部門における全要素生産性の改善が過小評価されていることを示唆している。より適切な日本の長期経済成長の把握に向け、商業部門の価格と数量の分離問題を遡及して改訂する意義は大きい。