市場拡大再算定の経済分析:薬剤費抑制効果の検証

執筆者 西川 浩平 (摂南大学)/大橋 弘 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2020年2月  20-J-005
研究プロジェクト 産業組織に関する基盤的政策研究
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概要

本稿の目的は、市場拡大再算定が市場に及ぼす影響を定量的に評価することにある。市場拡大再算定は、予想を超える販売量を記録した特定医薬品の薬価を最大25%引き下げるため、薬剤費抑制に活用したい政府と、指定された医薬品からの収益減少を危惧する製薬会社との間で意見が対立している。2012年4月に指定されたアーチスト、メインテートが含まれる降圧剤市場を対象に分析を行ったところ、次の3点が明らかとなった。まず、ヘドニック分析を通じて、市場拡大再算定による追加的な価格の引き下げ幅を試算した。結果として、アーチストでは平均5.5円、メインテートでは平均11.2円だけ、通常よりも低い価格が付けられたことが示された。次に、離散選択モデルに基づく需要関数を推定したところ、アーチスト、メインテートの需要の価格弾力性は、それぞれ-7.21、-7.87と非常に大きく、需要者は価格の変化に対して敏感に反応している状況が明らかとなった。最後に、アーチスト、メインテートが市場拡大再算定に指定されなかったとするシミュレーションを行った。薬価が大幅に引き下げられたことで、アーチスト、メインテートのシェアはとも30%ほど拡大し、売上高も15%程度増大した。結果として、降圧剤市場全体でみた薬剤費抑制効果は0.14%に止まることが示された。さらに、市場拡大再算定の対象をジェネリック版が上市されていない医薬品に限定することで、より大きな薬剤費抑制を実現できることを示す結果も得られた。